「しかけに感動する「京都名庭園」: 京都の庭園デザイナーが案内」烏賀陽百合 著(誠文堂新光社)
本書は、京都在住の庭園デザイナー・烏賀陽百合氏による、見どころのひとつとして「しかけ」に注目して庭園を楽しむ指南書です。
秋の観光シーズンを迎えた京都は宿を取るのも一苦労。
神社仏閣の拝観料もピークを迎えるのがこの季節です。
外国人観光客が押し寄せる人気の美術館としてテレビでも紹介されています。
横山大観など所蔵する日本画の魅力もありますが、観光客を惹きつける秘密は庭園にあると言います。
足立美術館を陰で支えるのは大勢の庭師たち。庭師の仕事は日々の掃除や樹木の剪定に止まらず、四季折々の表情を見せる庭園の演出にも深くかかわる仕事を担っているのだと言います。
庭木一本の植え替えにも、植え替えに耐えうる樹木を探しに日本中を駆け回る労を惜しまないのだともいうのです。
そうしたストーリーを頭に入れるだけで、訪れた時に目に入る景色も途端にドラマチックな物語の主人公に見えてきます。
庭園を構成する石組や植栽などを観察し、作庭家や歴史の背景に想いを馳せると、美しさだけではない、そこから伝わる仏教思想と、壮大な宇宙観を感じることができます。
庭園には歴史、文化、芸術、造園など、すべてが詰まっているのです。まるで庭園は生きたアートのよう。季節によっても表情が変わりますし、昨日と今日でも感じ方が全然違うのです。
庭園のデザインという仕事を続けるうちに著者が耳にした物語には、一見の旅行客には伺うことができない驚きがあります。
その一旦を知ることで、一味深い楽しみに出会える気がします。
本物を自分の目で見ることの価値は観客自身の意識の中にあるのです。