本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

#ながしまひろみ「やさしく、つよく、おもしろく。」

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「やさしく、つよく、おもしろく。」ながしまひろみ 著(株式会社ほぼ日)

糸井重里さん流*1のネーミングは読み手をハッとさせる力があります。それも大声で驚かせるのではなく、おやっと思って振り向く時のような味わいを込めて。

タイトルの中に三つの言葉があります。たいていの人は、先の二つを読んで連想するのが"たくましく"だと思います。違うと言う人がいるかもしれませんが、私の場合はそうでした。

そのたくましくの位置におもしろくを配置することで、タイトルには四つの意味が入ることになります。

出版する側は「いや三つです」と言うかもしれません。

しかし、読者は四つめの言葉を勝手に想像してしまうのです。

名作と呼ばれる名画は全てを語らないと言われます。

フェルメールの絵がいい例です。フェルメールの絵の中には物語を連想させる小道具がいっぱい仕込まれています。来日中の「手紙を書く女」などは三十くらいの解釈が可能なのだそうです。読者が勝手に答えを想像する絵です。

想像することで読者は読者自身と対話し、新たな自分を発見するのです。

ほぼ日のコンテンツ群は、ユーザーの自由を尊重します。読者の年齢、性別、趣味嗜好を分析して、これだと思うものを押し付けてくるようなやり方はしません。

読者のその時の気分に寄り添い、語りかけ、あるいは語りかけた言葉にうなづく相棒のような存在。そんな空気のような温かみを感じる本です。

 

*1:流としたのは糸井さんが関わっていないかもしれないから

#高島宗一郎「福岡市を経営する」

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「福岡市を経営する」高島宗一郎 著(ダイヤモンド社

いつも世界を変えるのは若い人が持つ情熱と行動力です。

政治家を目指す若者がアナウンサーをへて地方自治体の首長となった自伝です。

現職に挑む新人議員という構造ですので、読む側は自然と主人公に寄り添いながら地方自治の世界を代理体験することになります。

相手は若造だと言ってなめてかかる年輩議員や市職員。官僚制度の悪い側面を肌で感じさせられます。

しかし大切なのは地方自治を担う人たちの視線の行先です。著者は地域の住民をイメージしながらその仕組みの変革に挑みます。

テクノロジーが世界を大きく変えていくこれからの世の中。何もやらないことが最善の地方自治である時代は早晩行き詰まります。

道路陥没事故を奇跡的に復旧した話や博多名物屋台の存続問題など、マスコミが報じない当事者目線の逸話が満載です。

このあたりのスピード感覚は落合陽一氏が共感する、実行力を感じます。

政治の世界は格闘技であることを改めて感じる内容です。

注意して読み進めたいのは、著者が政党に所属する政治家であること。

地元選出の麻生氏をことさら「麻生先生」と特別扱いしたり、安倍首相に褒められた点を引き合いに出したりするところには、親分子分の関係から抜け出しきれない"昭和な政治家"の匂いを感じます。

麻生は麻生と客観的に呼び捨てた方が響いたんではないかな。

 

#ユペチカ「サトコとナダ」

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「サトコとナダ」ユペチカ 著(星海社

基本的人権を認めることは、他人の無作法な振る舞いにも腹を立てずに受任することだ。

極端な例ですが、いつも心の中に持っておきたいコンパスのような視点です。

日本で暮らす私たちにとっては当たり前のこと。例えば夜中に一人で帰宅しても安心だとか。バス停で列を作って順番に乗車するとか、料理店で定食が当たり前のように速攻で出てくるとか。

こんな便利でストレスフリーな生活は等質な日本社会特有のものかもしれません。

だからこそ、違った文化で暮らす人の振る舞いをしっかり観察することが必要なのだと、この本は言っている気がします。

本作はフィクションです。なので、サトコにはもちろん私の視点も反映されていますが、私そのものではないですし、ナダもいろんなイスラム教徒の女の子たちをもとにつくったキャラクターです。私が海外で、イスラム教徒の女の子たちに出会って、自分が持っていたイスラム教徒の方のイメージとまったく違うなと、徐々に気づいていったことがあって。そんな思いをマンガに描いてツイッターに投稿したのが始まりです。

フイクションであっても大切なのは観察力です。真実は事実の積み重ねの上にあるとしたら、正確な事実を観察して描くことが作品を強くするのです。

写実画のように精密な描写であってもいいし、「この世界の片隅に」で描かれたような描き方であっても構いません。

客観的な観察眼で描かれた世界は主義主張で硬直化した批判を乗り越える力を持って読み手の心を揺さぶります。

 

#釈徹宗、#細川貂々、#毎日新聞「異教の隣人」取材班「異教の隣人」

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「異教の隣人」釈徹宗細川貂々毎日新聞「異教の隣人」取材班 著(晶文社

異国の国籍を持った人たちが大量に働きにやってくる時代を向かえます。働きに来てすぐに帰るひとたちと思い込んではいけません。環境がよければ住み続けたいと言うのは洋の東西を問わない真理です。

個人の自由の主張は裏返すと、個人の自由の主張で被る不利益を社会全体で支えることを意味するからです。

ものの考え方にしても同じです。働きにやって来た人たちは、これまでになかった価値観を持っています。その価値観を捨て去ったり、遠慮して隠したりすることはありません。

そんな人たちと直接対峙するのは行政の窓口ではなく、働きにやって来た人たちが暮らす地域社会です。あなたの隣に越して来た場合はあなた自身の問題になるのです。

そんな事態に直面した時、単一社会である日本の暮らしはどう変わるのでしょうか。すでに住民の多くが異国の人たちに置き換わってしまった地域の実例を見ることで処方箋のたてかたを想像することができます。

 

#田中のり子「暮らしが変わる仕事: つくる人を訪ねて」

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「暮らしが変わる仕事: つくる人を訪ねて」田中のり子 著(誠文堂新光社

ひと昔なら作ったものをどう売るか。注文はどう受け取るのかと言う問題が立ちふさがっていたものづくりの世界。

個人と個人が直接繋がり、仕事のやり取りやものの売買が比較的自由になる時代になりました。

その時代にどのようなスタンスで仕事に取り組んだらいいのでしょうか。これからその世界を目指す若い人たちの参考になるのが先駆者達の仕事ぶりです。

仕事のルポルタージュ晶文社の連作が有名ですが、仕事は時代とともに変化し、アップデートされて行きます。

その世界を探訪する取材者も新しい世代から見た新しい視線でないと、読者である若い世代のニーズを取りこぼしてしまいます。

現在進行形で綴られた仕事論は、現代日本の自画像を描くような時代の証言でもあるのです。

彼女たちは言わば、「“好き”を仕事にした人」。みなさんフリーランスで働いてい るので、自分自身で仕事をつくっていかなくてはなりません。また、それぞれに暮らしにまつわる作品を手掛けていますから、「どのように生活するか」は、つくるものの魅力にも直結します。 つまり彼女たちは、いわば「仕事人」かつ「生活者」の達人。彼女たちの話に耳を傾 けることは、「自分らしく生きたい」と考える人の仕事や暮らし方に、大きなヒント になるのではないかと考え、仕事と暮らしにまつわる話を、じっくり時間をかけて取材しました。http://kurashi-to-oshare.jp/news/54997/

 

 

【ブックレビュー】話題の本・週刊エコノミスト2018.12.25

エコノミスト2018年12月25日号レビュー欄で紹介されたビジネス書。

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「ニュー・ダーク・エイジ テクノロジーと未来についての10の考察」

「AIが変えるお金の未来」

「教養としての「所得税法」入門」

イスラエルがすごい マネーを呼ぶイノベーション大国」 

#高濱正伸、#相澤樹「あと伸びする子はこんな家で育つ」

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「あと伸びする子はこんな家で育つ」高濱正伸、相澤樹 著(大和書房)

少子高齢化働き方改革と言う二つの難題を前に、将来を担う子どもたちに大きな負担がのしかかっています。

経済的な余裕のない過程には格差社会と言う三つ目の難問も加わります。決定的な打開策は見当たりませんが、できる限りの予防策は打って起きたいのが親心と言うものです。

前提として頭に置いておきたいのは社会の構造が能力主義。できるできないと言うのではなく、自分の信用は自分で磨くと言う社会に変わっていくこと。そのためには自分の好きを妨げることなく伸ばしていく社会に変わっていくことです。

 

家庭環境に関して共感するものが多かったです。一番印象に残っているのは、あと伸びする子に共通してみられるのは「良質な集中力」を持っているという部分。先取り学習で、修学前にかけ算や漢字の読み書きが人より先にできることより、夢中になって取り組んでいることを見守ることが大切。様々な遊びから学ぶことも多いのでしょうね。また、「精神的な余裕」を持たせること。結局、精神的な強さや安定感(自己肯定感)は家庭での過ごし方に多いに関係するのですよね。夫婦仲がよいとか、安心感のある居場所があるかどうかなど。https://bookmeter.com/users/654096

堀江貴文さんや落合陽一さんなどが述べているように、興味のあることを一点突破で深掘りできる能力が求められる時代がやってきています。