本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

インターネット時代の読書術

池澤夏樹さんが一昨年から電子出版に取り組まれていることを知りました。電子書籍は書店にとって不倶戴天のライバルのような気がしますが、書き手にとっては別。著者は乗り気のようで、こんな風流なたとえで電子出版に取り組んだ動機を語っています。

「電子出版には質量がない、かさばらない、たくさん手元に置いておける。そういうことを“天使”になぞらえた。」

「天使って、質量がないんですよね。受胎告知の時だけ、相手がマリア様だからひざまづいているけれども、だいたいは宙に浮いています。質量がないというのはつまり、肉体がないということです。ある時、神様が周りにいる天使たちに「君たちも座りなさい」と言ったら、「神様、私どもにはその部分がありません」と言ったという話があります。天使にはお尻がないらしい。」(池澤夏樹電子出版プロジェクト 記者発表レポート2014.07.23 Wedより)

 

かさばらないというのは便利です。立花隆さんや松岡正剛さんのようなそれを生業としている人や収集を趣味としている人は別ですが、収納に頭を悩ませます。実体としての書籍が売れなくなっては本屋にとっては死活問題です。

電子出版に換わることで印刷された本が売れなくなるという危機感を書店側はどの程度受け止めているのか、店の主に聞いてみました。

「雑誌は苦戦です。ネットで似たような情報はすぐに手に入るからです。ただし書籍については波はあっても激減ということはないような気がします。」と楽観的な見通しが帰ってきました。通行人が立ち寄る一般書店とは違い、放送局で働く固定客を抱えた強みでしょうか。それでも見通しは核心を突いているような気もします。

揮発する情報をつなぎ止めるために必要になるのは書籍にすり込まれた「ものの見方」つまり教養だからです。どうやら「情報」と「教養」に売れ筋の境目がありそうです。

にこんな文章を発見しました。

「インターネットと比較して本の優れた点は、編集過程で編集者による選別が行われているということです。インターネットの場合、パーッと流して見ていって、探している単語なりが引っかかればそれでいいわけです。」立花隆

「インターネットだったら紙から吸収する情報量の二十分の一くらいしか入ってきませんね。私は情報屋ですから、資料も何も持たないで、どれだけインプットできるかが勝負なんです。情報の世界では最後に勝負するときには、何も持っていないですからね。」佐藤優

新しいメディアが出てきたからと行って古いメディア(コンテナ)がなくなるということはなく、作品(コンテンツ)に向き合う人間の姿勢が問われているようです。