本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

秘密の本

・タイトル秘密です。
・返品はできません。
・他の人には教えないでください。

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不思議な売り方をしている本があります。
その名を「天狼院秘本」といいます。

 「秘本」といっても、地方都市によく見かける、

大人向けのテーマパークで売られている類いのものではありません。
その道の達人であれば、「ハハア。アノ本屋ね」とニヤリとするかもしれません。
ネーミングが意味深ですね。

さて、その本がこれ。

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黒いカバーで覆われています。
読者は購入して封を開けるまで中の本がわかりません。
それでも読者の間で話題が広がっているのは
書店が自信を持って推薦する本だからです。
天狼院書店は東京・雑司ヶ谷に2013年にオープンした小さな書店です。
http://tenro-in.com/

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最近5冊目(上の写真)の秘本が発売されました。

中身はすでに出版された書籍です。

企画したのは店長の三浦崇典さん。

三浦さんは若い頃ほかの書店での下積みを経て独立した経験をお持ちです。

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店で売れ残ってしまった本を
ひたすら返品させていただく仕事でした。
あとは病院や美容院への「本の配達」ですね。
そういう下積みを2年くらいやってました。

天狼院書店は、何がしたいのか。- ほぼ日刊イトイ新聞

その三浦さん自身が読んで納得の上太鼓判を押した本が「秘本」なのです。

本屋でいう「選書」です。

その意図を三浦さんは4冊目の秘本を発行する際に語っています。

ところが、そうではなく、抜き差しならない状況にいる人もいるかもしれない。
何らかの拠り所にすがりつきたいと思っている人がいるかもしれない。
絶望の泥沼に足をとられて、そこから抜け出す気力も体力も失ってしまった人がいるかもしれない。
ただぼんやりとした不安に苛まれて生きている人もいるかも知れない。
そんな多くの人に、僕はこの本を届けたいと思います。
本屋として、この2冊の本を処方します。

http://tenro-in.com/hihon/11591

買い切って売るのだからこれは大変な決断です。

書籍は、正確にいうと、「返品条件付き買い切り商品」です。つまり、「一旦は買い切って仕入れ代金を支払うが、同額で返品することができる」という不思議な商材。けれども、僕は、この「返品条件」なしで、この本を買い切ることに決めました。そのためには、新車1台分くらいの費用が必要になります。それは、小さな天狼院にとっては、実に大きな冒険です。なにせ、東京天狼院のすべての在庫が、4,000冊に過ぎないので、
天狼院が1,000冊買い切ることがどれくらいのことなのか、想像頂けるかと思います。

こうした考え方を「READING LIFEの提供」というのだそうです。
本を売っておしまいというのではなく、本の先にある「体験」まで提供する、
まったくあたらしい業態だと聞きました。
大量生産・大量消費ではなく、ものすごく身近な売り方です。
読みたい本がなくなったのではなく、読みたい本に出会いにくくなった今だからこそ
こうした取り組みに学ぶところは多いような気がします。