本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

日常から離れたくなった時読む本

 文芸系の新しい本が登場しました。 

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ミステリーは年末に集中して動くのが通例です。その年話題となった本がランキングとなって再びスポットライトが当たるからです。その波が収まるとそろそろ新しい作家や新作が出始めます。

ヘレン・ギルトロワは洋書に通じた読者なら耳にしたことがあるイギリスの新人作家です。*1

  • 「謀略監獄」ヘレン・ギルトロウ(Helen Giltrow)著(文藝春秋

英国出版界を揺るがした究極のプリズン・サスペンス。荒廃した町を壁で囲み、囚人に全てを運用させる「監獄街」そこに侵入・脱出するインポシブル・ミッションに犯罪のプロたちが挑む。最高にクールな女性ヒーローと巧妙なプロットでイギリス出版界を揺るがせた新人のデビュー作。

週刊文春(2月4日)にレビューが掲載されています。

プロの犯罪者、情報機関、警察が様々に交差して先が読めない。一風変わった刑務所の施設に謀略の要素を持ち込む趣向がいいし、人物像も賑やかでアクションも多く、また視点の切り替えもきびきびしていて飽きさせない。

 

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  • 「薄情」絲山 秋子著(新潮社)

境界とはなにか、よそ者とは誰か――。土地に寄り添い描かれる、迫真のドラマ。

というキャッチに惹かれます。地方都市とはどこなのでしょうか。「北関東なのではないか」という声が聞かれます。主人公の内面、世間の本質などという深い世界を描いた書店の選書ぶりには読者層のツボを心得た技を感じます。

地方都市に暮らす宇田川静生は、他者への深入りを避け日々をやり過ごしてきた。だが、高校時代の後輩女子・蜂須賀との再会や、東京から移住した木工職人・鹿谷さんらとの交流を通し、かれは次第に考えを改めていく。そしてある日、決定的な事件が起き―。季節の移り変わりとともに揺れ動く内面。社会の本質に迫る。滋味豊かな長編小説。

こちらは読者の感想。 

湯加減の良い温泉に浸かっているようで、抜け出したくなくなる。読み終えるのが惜しくなる。今回は心地よいだけでなく、ひっそりと忍び寄る不安もやってくるようで、その不気味さがまたたまらなかった。

芥川や直木、本屋大賞と看板役者が続々登場する中、知名度こそ劣るものの伸びしろの期待できる逸材が登場した感があります。反響が気になります。 

*1:オッスフォード大学新聞のエディターとして10年間過ごした後2001年にフリーランスの作家として活動をスタートした。