本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

全米で最も住んでみたい都市

「Spectator」vol34はポートランドを特集しています。

 

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なぜポートランドの特集なのでしょうか?ちょっと興味をそそらました。ポートランドオレゴン州北西部にある人口61万人の都市です。”全米で最も住んでみたい都市”に選ばれる街。2013年アメリカのベストシティランキングの第1位に選ばれた街です。そう聞いただけで、これは読んでみたいと思わせるロケーションです。

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手の届く距離に必要な物があり、癒やされる自然も豊か。通常の半分の広さでつくられた街区。たくさんのカフェ。街には路面電車が走り、ロープウェーも発達していて移動もラク。コーヒーもメチャおいしい。

本誌では、その町で働く人々に密着。レコード専門店やビールや活版印刷、ドーナツ販売の店舗など「ポートランドの小商い」をする人々を取り上げています。

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編集者のことが気になって調べてみました。

編集人は青野俊光*1さん。『Bar-f-Out!』という、渋谷系と呼ばれていた音楽を主に扱う雑誌を作っていた編集者です。青野さんは大学の時「自分たちで雑誌を作って本屋さんに置きたい」という衝動だけで『Bar-f-Out!』という雑誌を発刊したという経歴の持ち主です。

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「友達と一緒に町工場の印刷所に版下を持って行ってレコード屋さんで販売した代金をかき集めて印刷料を払う」という無茶をしました。もう少しカルチャー全般のことを取り扱いたいと思って立ち上げたのがこの『Spectator』です。

70年代からヒッピー文化が息づいている街です。環境意識も高く若者たちは自転車で移動しているような町です。同都市圏は1,200を超えるハイテク企業があり、このハイテク企業の密度の高さからポートランド周辺の地域は「シリコン・フォレスト」と呼ばれるほどです。また、草の根運動が盛んで、自分たちの町を住みやすいように改造しちゃおうという機運があります。

過去に寄稿してくれたアメリカ人のライターがポートランドの大学に通っていて、いろいろ話を聞いているうちに興味が湧き、その町を丸ごと発信してみたいと思ったのだそうです。

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本誌では、おしゃれな店や観光案内のような記事が見あたりません。そのかわり、地ビールやワイナリー、コーヒーショップなど地元密着の企業がサステナビリティ(持続可能)に対して非常に高い意識を持ちながら営む仕事のかたちが描かれています。

自分が行為者となって調査・報道をして、何が起こっているのか自分の眼で確かめる。それをまるで映画を観ているような、心の中に画が浮ぶような文章で表現する。そういうのを自分もやりたいと思っていたんです。ハンター・S・トンプソンというライターの影響なんですが・・・。

ものごとの一局面だけを見ていると、全体を見失うことがあります。一点にとどまり、そこで起きる出来事を丁寧に見続けることで世界が見えてくることがあります。青野編集長の目指すところは、独自の世界観や倫理観ではじまったちっちゃな商売を見つめるなかから、私たち自身が「気付かされる」ことにあるのかもしれません。

自分にとっての雑誌は“取っておきたくなるもの”で、そういう雑誌を作りたいという気持ちがあるし、その関連性の中で過去の号も掘り起こしてもらえたらとも思います。文芸評論家の仲俣暁生さんが、ご著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社、2011年)のなかで『Spectator』を「手紙みたいな本」だと評してくださったことがあるんですけど、それを読んで、なるほど自分は「遠くにいる人に宛てた手紙」みたいな気分で雑誌を編集しているのかもと思いました。

好きなものを好きなようにつくることが大切です。

スモールビジネスの持つゆるいつながりは、新しい世界を開く力になると信じます。

dotplace.jp

*1:1967年茨城県生まれ。スペクテイター編集・発行人。大学卒業後、2年間の商社勤務の後、92年インディマガジン『Bar-f-Out! (バァフアウト!)』を山崎二郎、北沢夏音と創刊。TCRC設立。99年『Spectator(スペクテイター)』創刊。2001年、有限会社エディトリアル・デパートメントを設立。2011年、編集部を長野市へ移す。