本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

ひとつの指揮のもとでひとつの音楽を奏でられるという吹奏楽の楽しさ

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最近のドラマや映画の原作は小説よりコミックの方が多くなっています。コミックに売り場を割けない書店としては、原作となった小説を目を皿のようにしてさがすのですが、ようやく見つけて書架に並べたのがこの本「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」武田綾乃*1著(宝島社)です。

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昨年放送されたアニメは地味(主人公は空を飛ばないし、時間を遡ったり、萌えたりもしない)なものでしたが、思春期が抱える鬱屈していた気持ちや努力、達成感などをバランスよく詰め込んだ出色の作品でした。

『響け!ユーフォニアム』(以下「ユーフォニアム」)は、2015年4月から7月にかけて放送された、京都アニメーション制作のTVアニメ。主人公・黄前久美子をはじめとした吹奏楽に情熱を傾ける高校生たちの青春群像をリアルに描き、多くのアニメファンの心をつかんだ人気作だ。

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著者である武田綾乃氏は、2016年春に大学を卒業し社会人となる、弱冠23歳の若手作家だそうです。小学5年生の時に金管バンド部に入って、中学生になって吹奏楽部で活動した経験があり、部活動時代の友人たちや母校である嵯峨野高校吹奏楽部を取材し、自身の実体験も織り混ぜながら本作の構成を練り上げたのだそうです。

 

私も小学生の時に、ユーフォニアムって楽器の担当が余っているから入りなよって誘われて「え? ユーフォニアムって何?」みたいに思ってたんですけど、作品にも登場する似たようなくだりとか、合奏中に存在を忘れられるとかは、完全に自分自身の体験です。

 

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ユーフォニアム」という楽器は完全に脇役のポジションに収まっています。華やかな主役を張る楽器を選ばなかったところに物語のシンの強さを感じます。優秀な子もいればそうでない子もいて、めざす方向性も違う。ばらばらな個性を認め合いながら集団としての方向性を自らの意思で決めていく展開に、素直に心を打たれました。

でも、一生懸命頑張るのも「頑張るってかっこわるいよね、サボろうよ」という気持ちも根底は一緒で、自分の意思で決定したと思ったことでも、結局は場の空気に流されているだけなんじゃないかと私は思っていて。そういう「空気」というのが、1巻のテーマだったんです。

 活字離れ、小説離れという言葉はよく聞きます。その通りかもしれませんが、表現する人の熱量が下がったことを意味するものではないはずです。書店としては”埋もれた脇役”を探し続ける努力が大切なのだと思います。

*1:1992年京都府生まれの小説家。2013年、「今日、きみと息をする。」が宝島社第8回「日本ラブストーリー大賞」を受賞。第二作「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」がアニメ化される。「響け! ユーフォニアム 2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」「響け! ユーフォニアム 3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」以上、すべて宝島社文庫)などがある。