本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

このままでは親子共倒れ アラハンどころではない老後の話

100歳になっても悠々とした人生が送れれば幸せです。ところが明るく輝く光のそばには、暗くて深い闇の存在があります。見えにくい闇の存在を照らしだすのも放送が担う使命の一つです。本屋の社会・福祉のコーナーも高齢化社会の今を反映してか、老後と貧困をテーマとした本が増えている気がします。

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高齢化が進む日本。認知症や介護など増え続ける高齢者を誰が支えるか?放送ではこれまで何度もこの問題を伝えてきました。

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そこで見えてきたのが、負担が高齢者だけにとどまらず、世代を跨いだ家族全体に広がり「弱いものが身を寄せ合って生きざるをえない」という深刻な現実でした。

進退窮まった暮らしを描いたのが「老後親子破産」NHKスペシャル取材班(講談社)です。 老後破産を制作した担当者たちが、取材過程で耳にしたひとことから掘り起こした驚愕の事実が大きな反響を呼びました。

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非正規で働いていた人たちが40代くらいになって一人暮らしを維持できなくなって、かつ生活保護には頼りたくないと、農家をやっている地方の親元に出戻っていくというパターンなのですね。実際に取材を始めると「自分の親戚にもこういう人がいる」とか、見回すとそういう人がかなりたくさんいて、身近な問題になりつつあるのです。

担当プロデューサーが語るように、中年になった非正規雇用の子どもと、それを支える年金暮らしの親。支えてほしいはずの子どもに逆にすねをかじられる。そして、その親が介護する老親の負担と、親子三世代が生活に苦しむという、かつては想像していなかったことが広がり続けていることがわかります。

年金を貰っていると生活保護を受けられないと誤解されている高齢者が非常に多い。「年金を貰っていてもその額が生活保護水準に達していなくて、かつ貯金がなければ生活保護を受けられるんですよ」と教えて差し上げると「そうだったの!」と言われる方も多い。

同居していては生活保護を受けるわけにはいきません。解決策の一つとして提示されたのが「親子で支え合うことをやめる」という選択枝でした。働ける世代と同居する高齢者は、高齢者施設などへ入居することで子どもと世帯を分離し、生活保護を受けられるようにします。残された子どもには就労支援を行い自立を促すという方法です。

親子が親子としてのつながりを持てなくなる社会が私たちの老後に待っている、身につまされる思いを感じた方も少なくないと思います。 

日本の社会はどちらかを選択しなければいけない時期に至っているんです。社会保障の施策はミニマムにして、経済競争とか合理化を進め、基本的に税も少ないけど福祉も小さいという国にするのか、あるいは税は取られるけど手厚い福祉で安心できるという方向を選ぶのか。これまで日本は、行政も政府もその選択肢を明確に提示してこなかったのですね。 

社会保障の枠を広げるためには増税が避けられません。家族の崩壊を放置するのか、増税して社会福祉を充実するのか、私たちにとっての大きな選択であることを考えさせられます。