本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

ニコニコ学会という楽しいアカデミズム

書籍との出会いがもとで、世の中の新しい動きを知るのは、書店をぶらつく魅力の一つです。壁のような書架に面陳されていたのが「ニコニコ学会βのつくりかた」です。

ニコニコ動画の投稿コンテンツではありません。

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かわいいイラストが表紙を飾るこの本。よくあるサブカル系の新刊かと見逃してしまったところ、書店員にニヤリとされてしまいました。サブカルと括ってもあながち間違いではないのですが、内容は「時代の先端を走る」"爆発力を秘めた"学究の書らしいのです。

書店からいったん離れて「ニコニコ学会」を調べてみました。

niconicogakkai.jp

 

学会の参加メンバーは情報系の学者やビジネスマンが並んでいます。「野生の研究者」が集う場所であり、ユーザー参加型研究の世界を作り上げたいというメッセージにあるように、「血気盛んな」人たちによる「組織横断的な」取り組みのようです。

我々は「研究」には多様な価値があると考えています。
学術的価値や産業上の価値も大事ですが、文化的・芸術的な価値も大事です。
研究するという行為自体に価値があったり、
他の人から反応があってうれしい!という価値でもいいでしょう。
そのいずれもが、研究を推進する大切な原動力となるはずです。

プロ・アマ問わず研究の魅力を広く伝えてきた「ニコニコ学会β」が発足したのは2011年、今年4月に幕を閉じました。5年間に限定された活動の集大成といえるのがこの本です。

現在、我々はユーザー参加型コンテンツが花盛りの現状にいます。
UGC(User Generated Contents)、CGM(Consumer Generated Media)などとも呼ばれますが、
ユーザーが作ったコンテンツが日々生み出されています。
ニコニコ動画YouTubeではユーザーが作った動画が日夜追加され、
ボーカロイドを使った楽曲が売上ランキングに上ることも珍しくなくなりました。
従来プロが作るものとされてきた創作物の世界にユーザーが参入し、
プロとアマの区別なく、多くの人が創作物を発表する世界になりました。

我々はアカデミアの一員として、この動きに大きな興味を持っております。

 取り組みを見て回ると、哲学的なテーマから実用的な発想まで参加者の幅を感じさせる報告が並んでいます。「データ研究会」「宇宙研究会」「運動会部」などテーマごとの分科会を眺めてみるとはっとさせられるところが多く、深く掘った穴どうしににトンネルを開けるような爽快感を感じます。

また、発表にしても遊び半分という訳ではなく、

「そもそも自分を何をしてきたのか」を長いスパンで見つめ直す必要があるため、事前準備の負担は大きく、断られることも少なくないという。日ごろ人前で話す機会が多い著名な研究者であっても綿密に準備し、「スクリプトをかっちり決めてアドリブを混ぜない」「スライドではなく持ち時間に合わせた動画を用意し、それに合わせて話す」などそれぞれに工夫して挑む。

とあるように、ガチな勝負を見るような緊迫感が漂います。

さて、放送局員として見逃せないのがこのテーマ です。

www.itmedia.co.jp

 

テレビアンテナに周波数フィルタをかけ、特定の電波だけ受信できなくするという発想です。考えてみたことなかった。

「(日本放送)協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」(放送法64条)

チューナーに手を加えた受信機をメーカーは商品化することはできません。しかし、アンテナは別で、「特定の周波数をカットする製品を作ることはできる」ということのようです。

ただし、このアンテナをタテにして「わが家のテレビ受像器は放送を受信できないので契約できない」といえるかというと、現実は甘くないと思われます。

世の中的にはテレビを受信機で見ない層が増えていること、自分が見たいコンテンツにだけ対価を払いたい(それも格安で)流れが広がる中で、「自分の力で電波を選択する」という研究のありようは、これまで「あたりまえ」だと思ってきたことに、根源から「ほんとうにそうなの」という疑問をぶつけ、考えてみることを提示するところにおもしろさを感じます。

食品会社のCMに「いいぞ、もっとやれ」という名コピーがあることを思い出しました。

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