「昭和の歌藝人 三波春夫 戦争・抑留・貧困・五輪・万博」三波美夕紀*1著(さくら舎)
音楽や芸能の才能があるなしに関わらず、若い放送局員は年に数回歌番組の手伝いにかり出されます。とはいっても出演者の送迎やフロアの手伝いといった雑用が中心です。公開ものの音楽番組は公会堂などのホールを借り切って一日がかりで収録するのですから人手がたりません。舞台の上下もわからない若者が、先輩局員の手足となって動き回るうちに作法を覚えるという、徒弟関係みたいな世界があります。
当然、歌手や役者さんなどを直前で見る機会もあります。テレビでよく見る「あの人」も肉眼で見ると全然印象が違うこともあります。しかし、おしなべて言えるのは、芸能人の腰の低さです。ペーペーの新米ディレクターにも頭を下げる大御所さんをみるにつけ、この世界は礼儀作法の世界だと言うことを強く感じます。
そんな目でみると、三波春夫さんの人物伝はあの時代の芸能人の生き方やものの考え方、そしてそれを支えた観客であるわたしたちの関係が、人より少し深くわかるような気がします。
三波春夫(1923年~2001年)は、唯一、「国民的歌手」いわれた昭和の大歌手。小学生のとき、新潟長岡で浪曲を田んぼのあぜ道で披露し評判に。13歳で上京、米屋や魚河岸で丁稚奉公、16歳のとき浪曲で初舞台。20歳で召集され満州へ、終戦後22歳~26歳までシベリアに抑留。昭和32年に三波春夫の名で歌手デビュー、「チャンチキおけさ」が大ヒット。東京オリンピック、大阪万国博の歌なども大ヒット。
本書では、三波春夫のこれまであまり語られていない面を明かしながら、日本人の心をとらえた大歌手の想いと昭和という時代を描く。