本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

ブラジルの大地に生きる

見渡す限りの原生林を必死で開拓、コーヒー農園を築くも、大寒波で壊滅状態に…。想像を絶する苦労の中で写真を撮った日系人移民がいます。

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1927 年にブラジルに農業移民として渡った大原治雄です。

広大な農地で農具を操る自分。花満開のコーヒーの木と娘。家族や仲間たちと切り拓き育て上げた広大な農場。そこで働く農民の日常風景。そして愛する家族の姿をこつこつと穏やかに写した大原の写真からは、人々の心に存在する普遍的な人間や自然の賛歌が聞こえてきます。

取材で一度ブラジルを旅したことがあります。フロリダ経由で24時間かけてサンパウロ空港に降り立ち、そこから北東に350キロ車で一直線に進んだベベドウロという農村が取材先でした。

行けども行けどもサトウキビを中心としたプランテーションの丘が続きます。農地の端ではシャツ1枚の人たちが働いています。彼らは地主に雇われる小作農。自家用飛行機で所有する農地を視察する地主とは大違いの暮らしぶりです。日本を立つ前に「現地の生活はたとえるなら中世の生活だ」と聞かされた言葉の意味がわかりました。日系移民の人たちもまた、体一つを資本に過酷な日々を過ごしたのでしょう。 「日本が私たちの生産品を買ってくれると豊かになれる」と取材先の主は言っていましたが、輸入されると日本の生産地はいくばくかの影響を受けます。豊かさとはなにか考えさせられた取材でした。

 

「大地が育てた写真 ブラジル移民 大原治雄(はるお)」

再放送は5月29日(日)Eテレ 夜08時00分~08時45分

写真集があります。モノクロームの写真からは大地に生きる家族の息づかいが聞こえてくるようです。

ブラジルの光、家族の風景 [ 大原治雄 ]
価格:3132円(税込、送料無料)


 

大原治雄(1909年~1999年)高知県吾川郡三瀬村(現・いの町)生。 1927年、17歳で父母兄弟らと集団移民としてブラジルに渡り、はじめサンパウロの農園で農場労働者として働き、その後未開拓の地、パラナ州ロンドリーナに最初の開拓者の一人として入植しました。 28歳の頃に小型カメラを購入し、農作業の合間に趣味で写真を撮りはじめ、 1998年、「ロンドリーナ国際フェスティバル」で初の個展が大きな反響を呼びました。

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大原治雄写真展―ブラジルの光、家族の風景
ブラジルの大地と光、
ささやかで、愛おしい家族の風景
鍬を手に持ち、カメラを肩にかけて・・・
ブラジルの移民、大原治雄の日本初の展覧会
高知県立美術館
2016年4月9日(土)~6月12日(日)
高知県高知市高須353-2
TEL 088-866-8000
展覧会では、1940年代から60年代に撮影された作品を中心に182点のモノクローム・プリントが展示される。また、大原が妻・幸の思い出を編集し子どもたちに手渡したという「アルバム帖」を展示。また渡伯以来書き続けた日記、カメラなどの関連資料が、高知会場のみ特別展示される。

大原治雄写真展―ブラジルの光、家族の風景