本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

そのまま映画が見たくなる本

本日登場したのは、「読んでいてニヤニヤしてしまう楽しい映画本!」

放送局の人はキホン的に映画が大好きです。番組制作者の中には徹夜して編集したあと、自宅に帰る途中でオールナイトの映画館に入って次の日出局するなんて、タフな人も見かけます。たぶんこの本は、そうした映画愛好家の話題に上るだろうと期待しています。

洋画の話から突然雷蔵や成瀬の話になったり、ワイルダーや成瀬映画にみられる無意識なのか意識的なのか分からない気持ち悪い女性観やモラハラの話とか・・・

著者は 「映画秘宝」をはじめ、「朝日新聞」や「キネマ旬報」、またハニカムでもおなじみの映画著述家・真魚八重子氏です。

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真魚八重子(まな やえこ) 愛知県生まれ。映写技師や派遣社員を経て、現在は映画著述業。『映画秘宝』や朝日新聞映画欄、ハニカム他で執筆中。共著に『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『江戸川乱歩映像読本』『厭な映画』(洋泉社)ほか。初の著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)も好評発売中。

 

書店の愛好家として注目したいのが目次と映画の相関表です。

表題をチラ見しただけで並ならぬ文章力がわかります。案の定ツイッターを見たら、脚本家をめざす読者が真魚氏の原稿に脱帽していました。これは売れる・・・というか、読むより先に映画が見たくなる。

 

映画なしでは生きられない [ 真魚八重子 ]
価格:1836円(税込、送料無料)


 

第1章 こんなババアになりたい!
マッドマックス 怒りのデス・ロード
第2章 文化系女子はなぜサブカル有名人の彼女になりたがるのか 
全身小説家』『ストーリーテリング』『ラブレター』
第3章 私たちの将来が明るいなんて、あの映画は嘘だった 
『ロミーとミッシェルの場合』『スケルトン・ツインズ 幸せな人生のはじめ方』
第4章 王子様に救われたいし、救いたい! 
マッスルモンク』『名探偵ゴッド・アイ』
第5章 女にもわかる武士道 
――市川雷蔵と女の親和性 三隅研次の〈剣三部作〉
第6章 失恋の泥沼で 
アデル、ブルーは熱い色』『傷ついた男』『ベルフラワー
第7章 憧れの女子寮生活(殺人鬼込み) 
『暗闇にベルが鳴る』『象牙色のアイドル』『サスペリア
第8章 巨匠でいいのか?! ビリー・ワイルダーのいびつなセックス観 
アパートの鍵貸します』『昼下りの情事』『お熱い夜をあなたに』『ねえ!キスしてよ』
第9章 もし世界が終わるなら 
『世界の終り』『エンド・オブ・ザ・ワールド』『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』
第10章 スピルバーグディスコミュニケーションと、嫌がらせの世界。そして、トム・クルーズ 
未知との遭遇』『プライベート・ライアン』『シンドラーのリスト』『ミュンヘン
ブリッジ・オブ・スパイ』『マイノリティ・リポート』ほか
第11章 好きだと言いたい!トム・クルーズ 
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』『マグノリア
オブリビオン』『アウトロー』『オール・ユー・ニード・イズ・キル
ロック・オブ・エイジズ』ほか
第12章 やればデキる! 
親切なクムジャさん』『ドリーム・ホーム『叫』
第13章 ゴスはなるのではなく、生まれつくものである 
『ヴィンセント』『闇のバイブル/聖少女の詩』『ブレックファスト・クラブ』
アダムス・ファミリー」シリーズ『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
マイティ・ソー」シリーズ『クリムゾン・ピーク
第14章 モラハラを描いた巨匠 成瀬巳喜男 
杏っ子』『山の音』『妻として女として』
第15章 カワイイ映画も好きです 
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック
ファンタスティック Mr.FOX』『グランド・ブダペスト・ホテル
第16章 つらいから、眠るの ――ホン・サンス 
『アバンチュールはパリで』『3人のアンヌ』『自由が丘で』
『ヘウォンの恋愛日記』『次の朝は他人』
第17章 侮辱が餌のカゴの鳥 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
『自由の代償』『マルタ』
第18章 少女の人殺し 
『小さな悪の華』『乙女の祈り』『アリス・スウィート・アリス』『トランス/愛の晩餐』
第19章 野村芳太郎の奇妙な映画
 『八つ墓村』『真夜中の招待状』
第20章 殺人鬼グルーピー 
『接吻』『ペーパーボーイ 真夏の引力』
第21章 死者の横やり――悲しい恋、悲しい出会い 
『LOFT ロフト』『4人の食卓
第22章 あなたのことをわかってあげられるのはわたしだけだし、
わたしを理解してくれるのは、この世にあなたしかいない 
『眠り姫』『今日もまたかくてありなん』
第23章 生きていたくない人へ  
ゼロ・グラビティ』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『フィルス』

本書のラストで著者は映画への思いを綴ります。

・・・わたしも本当は死にたいなと時々、道で立ち止まるように思う。ただ死ぬ勢いも切迫感もないから、よろよろと歩いているだけ。映画は、自分がいま死ねない代わりに、スクリーンのなかで俳優が代償行為として死に向かう。誰にでも、心の闇は要素としてあるものなのだ。だから、映画はそんな追い詰められた人々をなぞる。・・・

著者のささやきに惑わされてはいけない。誘惑に負けるのはあなたひとりでいい、私は違う。踏みとどまろうと活字から少し目を離した瞬間、著者は思いもよらない行動に出ます。

・・・そして弱い人間は、死に瀕する精神的な限界に立ち会うことで、生きていたくない気持ちを浄化し、とりあえず明日、もう一本映画を見ようと思う。・・

帰り道は無限に遠い読後感です。