本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

妖怪たちのふるさとを訪ねて

転勤で島根県に3年ほど暮らしたことがあります。「島根と鳥取はどちらが西」という意地悪な質問にかなりの人が答えられないほど、影の薄い県です。しかし、宍道湖に近い松江は水の都で、冬のあいだ雪が横に降る天気さえ気にならなければ、一生暮らしてもいいと思ったほど住みやすいところでした。

出雲には古代からの歴史があります。11月の神無月になると、日本中から神様が来るので、ここだけは神在月 になるという異色な土地であり、小泉八雲もこの土地が大好きでした。東京にいくときは出雲空港米子空港の2ルートがあり、時間があると米子で降りて境港まで足を伸ばすこともできます。境港は日本海有数の漁港で風情があります。

空港の名前が米子鬼太郎空港になるまで、境港は水木しげるさんの故郷であることを知る人はそう多くなく、ここで水木グッズをお土産に買うというたのしみがありました。

という思い出がよみがえったのがこの本・・・

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「水木サンと妖怪たち: 見えないけれど、そこにいる」水木しげる 著(筑摩書房)

90年代の単行本未収録エッセイと対談が詰まっている本です。

 

神社には、願いごとをかなえてくれるカミサマがいた(それはどうしたわけか、ひげを沢山生やした男の形だった)。お稲荷さんには、狐とおぼしき神がいた(これは狐の形で頭に入ってしまった)。道端によく、団子なんかがおいてあるのは〝狐落し〞のまじないであった。また家から千メートル位はなれた〝病院小屋〞には幽霊に近いものがおり、その近くをながれる〝下の川〞には河童がいた。従って、この川には小学校五年生くらいまでは、あまり近よらないようにしていた。

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この本によれば、「島根半島の山には所々に祠があり、名前も分からなかったが、なにか・・・神霊に近いものがおり、この山を掘ってみれば、なにか出るというのは、この間まで信じていた。」とあります。

山陰で暮らしてみるとその通りだと感じます。オカルト映画のような実体を持った「モノ」が存在するというものではなく、それは気配を感じるというかすかなものです。八百万の神を祀った日本人の原点と表現する人もいます。短い期間でしたが山陰の暮らしは僕の人生にとって悪くない思い出になりました。