出版メディアの中で今、いちばん元気があるのは電子メディアでまちがいはないでしょう。飯田一史氏の「ウェブ小説の衝撃」によると、「小説家になろう」や「E★エブリスタ」などの投稿サイトが急成長しています。
小説投稿サイト「小説家になろう」最大のライトノベルコンテストを見ると、その成長ぶりがわかります。「なろうコン大賞」と呼ばれるコンテストの 応募総数は2200作!。1000作以上の文学賞はおよそ20程度しかありませんので凄い数です。
その第二回「なろうコン大賞」受賞作!が「異世界居酒屋「のぶ」」です。文芸とアートの境界線あたりにあるコミックコーナーが拡張され、受賞作品と思われるタイトルが面陳されていました。
「のぶ~」は、異世界で開かれた日本の居酒屋のお話です。著者の蝉川夏哉氏*1が宝島社から出版した同名の原作小説をもとに漫画家のヴァージニア二等兵氏がコミカライズし、人気に火がつきました。(メディアミックスの構造が複雑です)こちらはヴァージニア二等兵の名前がある雑誌連載版。
店頭に並べられたのは、「異世界居酒屋「のぶ」 しのぶと大将の古都ごはん」です。表紙にある作画担当の名前が「くるり」になっています。解説にはヴァージニア二等兵のなはありません。
原作者・蝉川夏哉自身による「描き下ろしストーリー」×公式イラストレーターくるり(転)自身による「描き下ろしマンガ」という原作コンビでコミカライズ! 完全な新作ストーリーを、原作イラストレーターがマンガ化するという、ファンならずとも垂涎の作品!! コミックス特典として、描きおろしカラーイラスト&未公開のコミック限定ストーリー、カバー下にはお楽しみ4コマなど特典盛りだくさん!!
事情はさておき、内容は今ウェブ小説で流行中の「異世界もの」に、コミックス界で理由校注のグルメものをかけあわせたもので、流行×2のいいとこどりを臆面もなく狙うという内容です。
古都アイテーリアの裏路地に、一風変わった店があるという。
若い衛兵ハンスは同僚のニコラウスに連れられてその店──居酒屋「のぶ」を訪れる。
木の引き戸を開けた先にいるのはノブ・タイショーと呼ばれる主人と、給仕のシノブという女性。
こぢんまりとした店内は、不思議な異国の情緒を漂わせており、見たことも聞いたこともない料理を出してくる。
そして、キンキンに冷えたエール──「トリアエズナマ」がとんでもなくうまい!
噂は広が り、次々に客が訪れるようになるが、中には込み入った事情を持つ者もいて……。
これは、異世界に繋がった居酒屋「のぶ」で巻き起こる、小さな物語。
「深夜食堂」であり、「孤独のグルメ」でもあり、「ダンジョン飯」でもあります。
ひょっとすると「ゴールデンカムイ」や「食戟のソーマ 」が隠し味として仕込まれているのかもしれません。
異世界といいながらも異世界でバトルが展開されるわけでもありません。アイテーリアの兵士たちは謎の文字が読めないものの、居酒屋のぶが提供する美味い料理に魅了されていくところなんかは、外国人旅行者が日本の居酒屋でお袋の味に「参った」してしまうような読後感を感じます。
そんなところが、外国人相手に番組をつくることも多い放送局の読者層に刺さるのではないかと書店員は考えたのではないでしょうか。
言葉は通じなくてもイメージは万国共通。おいしいものを仲良くいただけば友情も広がります。ネットという舞台で続々誕生を続けるウェブ小説とは上手に付き合っていきたいモノです。
↓こちらは「二等兵」版
異世界居酒屋「のぶ」(1) [ 蝉川夏哉 ]
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↓こちらは「くるり」版。
異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん [ 蝉川夏哉 ]
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*1:1983年大阪生まれの33歳。会社勤めの傍ら、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿をはじめ、2012年に『邪神に転生したら配下の魔王軍がさっそく滅亡しそうなんだが、どうすればいいんだろうか』が書籍化されデビューしました。