本屋は燃えているか

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NHKスペシャル「私は家族を殺した~“介護殺人”当事者たちの告白」

最近放送局員から書籍の問い合わせが増えているジャンルに「介護」、とりわけ「介護殺人」というキーワードがあります。老親をかかえた我が身としても他人事ではありません。介護殺人とは、介護を担っている家族~配偶者や息子や娘~が、要介護者を殺害してしまうことです。

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出版されたものにはこのようなものがあります。

 

「介護仲間ハッピーリング 仕事と両立させ、虐待や介護殺人を防ぐ知恵」 朝日新聞社編(朝日新聞

「老女はなぜ家族に殺されるのか―家族介護殺人事件」 

老女はなぜ家族に殺されるのか―家族介護殺人事件 (OP叢書)
 

100人を超える当事者に接触を試み、直接話を聞くことができた11人の事例を手がかりに、介護に追い詰められる人々の姿に迫った番組が放送されました。

NHKスペシャル「私は家族を殺した~“介護殺人”当事者たちの告白」

2016年7月3日(日)総合 夜9:00~9:49

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九州地方に住む男性(71)は42年間連れ添った妻を殺害して、執行猶予のついた有罪判決を受けました。夫婦は共に旅行に行くのが楽しみだった仲のいい夫婦でした。しかし妻は腰の骨を折り介護されることになります。妻は夫に『死にたい、殺して』といいます。1か月後、男性は妻の命を奪いました。男性は「こんな形で夫婦が終わるなんて思いもしませんでした」と語ります。


中部地方の男性(60)は認知症で暴れる母親を介護していました。介護のため仕事との両立に限界を感じた男性は、離れて暮らしていた失業中の弟に「助けてくれ」と介護を任せます。しかし弟の肩にのしかかる介護の負担は予想を超えたものでした。「助けてくれ」といわれたら断るわけにはいかない「手伝ってくれ」といわれたら違っていた。と語る弟は母の命を奪います。懲役8年で服役中の弟は「私には逃げる場所がありませんでした。母を楽にしてやれるのは俺しかいない」「罪の大きさを深く反省しています」と母親に手を合わせる日々を送っています。

今も認知症の母親の介護を続けている長谷川隆志さん(51)。介護が始まり妻は離婚。生活は一変し生活時間のほとんどを介護に取られる毎日です。長谷川さんは母が脳梗塞で倒れた時、救急車を呼ぶことをためらったといいます。「あのまま放置してお袋がいなくなった方が介護が終わる」。でも今は、そのときすぐに母を助けなかったことを今も強く悔いています。

妻に『殺して』と頼まれた九州の男性は語ります。母を殺めた父を長男は今も許さないのです。「憎くてやったんじゃないと言ったけど聞き入れてはくれませんでした」

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番組は報道局遊軍プロ、社会部、社会番組部、福岡局、熊本局、名古屋局、富山局による制作。介護は今日的な課題であり、視聴者の疑問や不安に寄り添うテーマでもあることから、放送局員は強い関心を持っています。個々の事象を深掘りするとともに、様々なケースを追うことで広がりを描くことができます。おそらく、地域の放送局では日々の放送を通じて取材対象と密接な関係を築くことができたものと思われます。その関係を維持しながら、当事者の話に耳を傾け、プライバシーなど取材者に対する配慮を行いながら、視聴者にとっても共感を呼ぶリポートになったのだろうと思います。

思いテーマですので、取材する側(取材者個人)もなにがしかの負担を背負うことになります。村上春樹の「壁とボール」ではありませんが、人々に寄り添う姿勢が放送局員の取るべき姿なのだろうと思います。

書店員は本屋は書籍という栄養を提供させていただくことで、小さいながらお役に立ちたいと語ります。 

 

NHKでは裁判記録などを基に138件の介護殺人を分析。介護を始めてから1年未満で事件に至るケースが最も多い26%に上った。

NHKは介護経験のある615人にアンケートを実施。「介護している相手を手にかけたい、一緒に死にたい」と考えたことがある人は4人に1人に上った。