人生の下り坂が見えてきたら、この雑誌の味わいがわかるはず。と書店員が話していたのが雑誌「つるとはな」です。現在3号まで発刊されています。
この本を知ったきっかけは「須賀敦子からの手紙」という本をめぐって書店員との雑談からでした。「手紙の写真集とでもいうのか、ちょっと変わった本が中高年に売れている」というのです。私はまさかその本が須賀敦子の直筆の手紙とは思っていませんでした。(むしろ、須賀敦子は福岡伸一氏が「生物と無生物のあいだ」だったかで、ベタ褒めされていたエッセイストとして興味を持ちはじめていたのです)入荷した本を見てびっくり。色とりどりの書翰にコバルトブルーのインクで丁寧に、しかも隙間なく(誤字などないことはもちろんのことです)埋め尽くされた文章の美しいことに驚かされました。須賀はすでに物故者です。友人に宛てた書簡を「つるとはな」の編集者が丁寧に撮って本にしたことが伝わってきました。
「須賀敦子からの手紙」は東京堂などでは週間ベストセラーになったこともある本です。こうした企画を載せた「つるとはな」とはいかなる本なのかしらん、とバックナンバーを取り寄せました。
表紙にはお年寄りの写真が1枚どーんと載っていて、その下に短いことばで綴られた大きめの活字が並んでいます。「会話ってお互いを発見しあうことでしょ」とは、単独で成立するコピーです。
中高年に響く企画がならんだ、地味だけど奥行きのある内容にすっかり魅了されてしまいました。(なにしろ広告がほとんど掲載されていません。やっていけるのかな)
「ともかく、若い人と一緒にいると、自然と体に気力が戻ってくるのだ。若い、ということの本質って、これなんだな、と思った。・・・・・・今、私は「若くない」から、「老い」の方に近づいている。・・・そうだ。老いるとは、あらゆることに関して、おぼつかなくなってゆくことなのだ。あんなに確信を持っていたことが、すっかりこころもとなくなっている。けれど、それはだめなことなのかなあ。と、若い頃の自分に問いたい気もするのだ」巻頭エッセイ 「薄明へ」川上弘美
編集者は誰かと調べてみたら、オリーブの元編集長だった岡戸絹枝さんと、「芸術新潮」などの編集長だった松家仁之さんがそれぞれ退職されたあといっしょになって始められた本だと知りました。
「学校や会社とはべつの、年上のひとの話を聞きたい。自分のいまを見直したり、これからを考えたい」と言い切って雑誌を作ってしますところがすごい。
つるとはな(第3号)
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