本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

人工知能が開く未来

ソフトバンク関係者から21日(水)22日(木)の二日間開催される「ソフトバンクワールド」へのお招きをいただきました。 21日の孫正義グループ社長の基調講演は早々と満員になってしまったので、翌日の宮内 謙社長と日本マイクロソフト樋口泰行会長らによる基調講演に出席する予定です。

一昨年の講演で、孫社長は演算スピードが加速度的に上がる将来、ロボットも含めた人工知能の時代となる(それもかなり早い時期に)と発言していたのが印象的でした。それから2年たった今、事態はどのような局面にさしかかっているのでしょうか?

書店員に「売れているのはこの本」と奨められた本を買い求めました。

 

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人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」松尾豊 著(KADOKAWA/中経出版

 

ディープラーニングの特徴をひと言で言えば、コンピュータが人間のように「気づき」を得るしくみのこと。これまで「人工知能」と呼ばれていたものは、たとえ同じ計算を10万回やっても、1回目と10万回目のやり方は基本的に同じで、「もっと早く計算できる方法」に自ら気づけない。コンピュータの計算能力は飛躍的に上がったが、それは根本解決ではないのだ。しかし、その状況がディープラーニングによって革命的に変わる。本書では、人工知能学会で編集委員長・倫理委員長なども歴任、日本トップクラスの研究者の著者が、これまで人工知能研究が経てきた歴史的な試行錯誤を丁寧にたどり、その未来像や起きうる問題までを指摘。情報工学・電子工学や脳科学はもちろん、ウェブや哲学などの知見も盛り込み、「いま人工知能ができること、できないこと、これからできるようになること」をわかりやすく解説する。初版4500部。7月現在14刷75,000部

鉄腕アトムターミネーターのようなヒト型の知能を持ったロボットの物語の印象が強すぎて、人工知能はロボットと思い込んでしまいがちです。また、電脳の能力が向上して人間の脳細胞の持つ能力を追い越した先に「怖い未来」が待ち受けているという不安も広がります。

そのあたりの情報を整理して、これまで起きたこと、これから起こりうることをかなりわかりやすく説き起こした本だと思います。

「今の人工知能ブームは第三次ブームなんですが、以前の二度のブームは、去った直後、研究に冬の時代が訪れました。著者はこの分野にこそ日本社会の未来があると革新しています。だからこそ『第三次ブームをただのブームで終わらせてはいけない』という強い思いがあり、本書を執筆したのです」担当編集者

本の帯に描かれたイラストは、ロボットと人間の共生を描いたアニメーション『イヴの時間』ヒロインであるサミイです。映画では人間とアンドロイドとの共生と、アンドロイドの運用にまつわる倫理の課題が穏やかなタッチで描かれていました。著者は,少なくとも現状の研究を進めていくだけでは,「人工知能が自らより賢い人工知能を作ったり,人間を征服しようとしたりする」未来は訪れないとしています.

人工知能を理解するキーワードは「特徴表現学習」。第三次ブームは堤防に開いた一つの穴にたとえられるほど画期的な技術だそうです。人工知能が新たなステップに乗り出す突破口が開いた段階で、グーグルなどのIT産業は膨大な資産を投じて走り出したばかりだといいます。この世界は土台となる部分を誰が押さえるかで将来の世界が変わります。日本は体制や頭脳も含めて能力は十分あるので後れをとるべきではないと論じます。(たぶんその通りでしょう)

著者は,人工知能技術を一部の企業が独占することについての懸念を述べています. 特徴表現学習をはじめとするこれからの人工知能技術は,学習結果から,リバースエンジニアリングなどによってその中身のアルゴリズムを知ることが非常に困難です. そのため,一度よい学習アルゴリズムを作ってしまえば,それを秘匿した上で学習結果のみを公表する形でのビジネスモデルが形成可能であり,それを進めていくうちに,よい学習結果が得られるところにデータもどんどん集まっていく…という,独占の構造ができあがってしまいます

 「ビジネスの未来を考えるべき立場にある方はもちろん、今、まさに進路を考える立場にある若い学生の方にも、ぜひ手にとって、ご自分の将来を考える助けにしていただけたらと願っています」

人工知能には何ができて何ができないのか、そこにどのような未来への希望があるのか、著者の思いが伝わってくる本でした。 これで講演の意味が少し理解できそうな気になりました。

 

ソフトバンクワールド2016は入場無料。事前申し込み制だそうです。

softbankworld.com