本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

池上冬樹さんが薦める新刊

新しい本に出会うには、選者が薦める本を手に取るのが早道です。

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池上冬樹さん*1です。

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「暗殺者の反撃」(上・下) マーク・グリーニー著、伏見威蕃訳(早川書房

“グレイマン(人目につかない男)"と呼ばれる暗殺者ジェントリーは、かつてCIA特殊活動部で極秘任務を遂行していたが、突然解雇され、命を狙われ始めた。それ以来、彼は刺客の群れと死闘を繰り広げてきたが、ついに今、反撃に転じる。CIA が抹殺を図る理由を突き止めるべく、故国アメリカに戻ってきたのだ。が、それを知ったCIA 国家秘密本部本部長カーマイケルは、辣腕の女性局員を配下に入れて、グレイマン狩りを開始する!

 

暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)

 
暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)

暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)

 

世界最高の冒険小説である暗殺者グレイマン・シリーズの第5弾。CIAの暗殺部隊との死闘は凄絶で、被弾や骨折の激痛を激しく喚起させながら興奮の坩堝へと誘い込む。第1シーズン完結編なので、ぜひ第1作から。活劇の嵐ともいいたくなるほどの凄まじいアクションの連続には必ずや圧倒されるはず。

 

「殺人出産」村田沙耶香 著(講談社

今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

 

女のみならず男も人工子宮で子供を産み、10人産めば1人殺害できる制度が機能する未来社会の物語。昨年の暮れに出た大傑作『消滅世界』の助走ともいうべき秀作で、倫理も道徳も根底から覆す。「クレイジー沙耶香」の異名をもつ鬼才の注目作だ。

 

「拝み屋怪談 禁忌を書く」郷内心瞳 著(筑摩書房)

優しい母として逝った依頼主、忌まわしき白無垢姿の花嫁、昵懇の間柄だったひと、心に怪物を抱えた女―。4人の女性の存在と彼女たちとの顛末を中心に、現役の拝み屋が体験・見聞した最新怪異譚を収録。決して触れてはいけない深く暗い闇と、ときとして人の温情がもたらすあたたかな光。双方が生み出す不可思議な事象は、そのどちらも怪異が持ち得る姿である。生者と死者が灯した火が妖しく揺らめく、厳選の53編!

拝み屋怪談 禁忌を書く (角川ホラー文庫)

拝み屋怪談 禁忌を書く (角川ホラー文庫)

 

現役の拝み屋が体験する怪談話で53編収録されている。春から初秋にかけての物語で、男の後悔と贖罪が主題となっていて長編としても読める。主に4人の女性を巡る怪異で、戦慄と郷愁と悲哀が綴られている。時に怖気を震い、時に甘い感傷に浸り、時に若くして逝った女性の家族の話に感涙を絞られてしまう。恐怖と感動が併存する会心作だ。  

*1:文芸評論家、書評家。マルタの鷹協会会員。 山形市生まれ。山形県立山形中央高等学校立教大学文学部日本文学科卒。マルタの鷹協会に寄稿していた書評を小鷹信光に注目され、アシスタント業務を担当するようになる