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本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

渋谷パブリッシングブックセラーズが熱い

書店ルポ

放送局員や制作プロダクションの人たちがよく利用する書店が近くにあります。SPBS(SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS渋谷パブリッシングブックセラーズ)というお洒落なブックショップです。

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渋谷の東急本店脇の通りを富ヶ谷方向にずんずん歩いて行った左側にあります。量販店とはまったく違った選書が特徴のこの書店は、元プレジデントの編集者がつくった書店だそうです。店内はジャンルごとにセレクトされた5千冊の書籍に加え、自分たちがデザインした商品が並べられています。また時折ワークショップが行われたり自社で出版も行ったりとユニークな活動を続けているので、若いお客さんを中心に人気です。

店舗マネージャーの鈴木美波さんは1987年生。大学在学中からSPBSの運営に携わり、入社。2012年から店長を務める本のキュレーターです。 

本屋さんって、本がありすぎて選べない、という声をよく聞くんです。私自身もかつてはそうでした。ならば、若葉マークな人たちが、本の海でおぼれないような空間があるといい。そんな考えから、渋谷のはずれでセレクト書店SPBSを続けています。本の隣に服やバッグやアクセサリーを並べたりして、めざすは「入り口の書ログイン前の続き店」。気軽に立ち寄ってもらえるように、本屋の敷居を下げたいんです。(2016年10月19日朝日新聞) 

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北に面した全面ガラス張りの店舗は開放感が抜群。柔らかな外光が書籍を優しく包み込みます。文化・芸術・デザイン系の書籍が充実している感じがします。棚は 「ボーイ・アンド・ガール」「食」「東京」など九つの独自ジャンルに区分けされ、本と本の内容が緩くつながって興味の動線が途切れずにならび、書籍との出会いが楽しめる構成になっています。 

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あるとき、「ベタベタな恋愛小説はありませんか」と聞かれたんです。取り扱いがなかったので、代わりに三島由紀夫の「音楽」を薦めました。ベタベタというよりドロドロの作品なんですけど、後日「おもしろかった」と言ってもらえて。常連さんだと好みを覚えているので、次はこれをと、さりげなく棚に差しておいたりします。黙っていても、その本を選んでくれたことが3回ほどありました。

この書店の特徴は、随時開催されるイベント・ワークショップです。著者を囲んだ座談会や編集者によるトークイベントは本を売る店というより、本や文化を育む店という雰囲気を感じます。

買ってもらえるのは、お客さんの気持ちと店側のアンテナがシンクロしたとき。天気や気分やノイズも含めて、その瞬間、この空間だから選んでくれる。それは、どんなアルゴリズムからも生まれない答えでしょう。そんなふうに即興のジャズ演奏のように本を届けられたら、と思っています。 

書店員に聞くと「本は衝動で買う物」なのだそうです。あらかじめ、これを買おうと本屋を訪れる人より、面白いものを探して立ち寄る人が圧倒的に多く、その興味にどう答える店作りをするかが売れ行きを左右するのだそうです。そう考えると「ありすぎて選べない本屋」ではなく、「本の海におぼれない空間づくり」という考え方はまっとうな考えだと思います。