本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

江戸を愛して愛されて

杉浦日向子の新刊が登場しました。
単行本未収録の、江戸に関する文章に加えて、全集に収録されたため単行本として公開できなかった漫画も収録されています。書店の固定客には生前の杉浦を知る人も多く、結構な人気です。

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「江戸を愛して愛されて」杉浦日向子 著(河出書房新社

単行本未収録の、江戸に関するエッセイを集める。全集に収められたまま読めなくなった漫画「横の細道」ほか、「呑々まんが」も全話完全収録。「新春・江戸之七景」など、イラストエッセイも多数収録した、貴重な一冊。

 

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2005年に46歳で亡くなった杉浦日向子は夭逝の才女として知られています。
江戸風俗を描かせたらかなう者はいないといわれ、歴史や文化を語る番組によく登場しました。
代表作は「百日紅」(1983年11月より88年1月まで「漫画サンデー」に連載)
梅雨明けから秋にかけてたくさんの花を咲かせ続ける百日紅に、多作の北斎をなぞらえたものだといいます。

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同作は昨年劇場版アニメとして公開。(「百日紅さるすべり)~Miss HOKUSAI~」原恵一監督)
両作品ともに味わいのある作品でした。

江戸時代の庶民のイメージは、貧乏だけど気のいい人物や、質素だが生命力あふれるくらしが思い浮かびます。

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ところが、この時代は「幽霊」や「化け物」が本気で信じられていたように、この世とあの世の距離がものすごく近かったのだそうです。杉浦は「百物語」でその世界を描きました。新刊本に採録された俳諧散歩「横の細道」は漫画のショートショートです。
火事や病気、事件・事故などの災難が現代とは比較にならないほど多く、平均寿命も40代と低かったのですから無理はありません。
当然、杉浦もそのことを十分知っています。平凡と猟奇を平等に登場させ、江戸の暮らしをベタ褒めしません。

《近年「江戸ブーム」とやらで、やたら「江戸三百年の智恵に学ぶ」とか「今、エコロジーが手本」とかいうシンポジウムに担ぎ出される。正直困る。つよく、ゆたかで、かしこい現代人が、封建で未開の江戸に学ぶなんて、ちゃんちゃらおかしい。私に言わせれば、江戸は情夫だ。学んだり手本になるもんじゃない。死なばもろともと惚れる相手なんだ。うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃ駄目だ。おろかなりのいとしさを、綺堂本に教わってから、出直して来いと言いたい》『ちくま日本文学全集』の岡本綺堂の巻に寄せた解説(『うつくしく、やさしく、おろかなり――私の惚れた「江戸」』に再録)

「昔はよかったなんて意地でも言わない」「現在いる場所が、いつでもどこよりも良い」と、繰り返し語っていた作家は、現代社会をどう捉えたのでしょうか。