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本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

平松洋子さんおすすめの5冊

選書

ジャーナリストの佐々木俊尚さんとエッセイストの平松洋子*1さんの対談。「台所という環境の中に、経済だけではなく政治や思想が入り込んでくる。という示唆は重要」と語る平松さんの推薦本をまとめてみました。

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朝日新聞2016年10月27日の紙面より 

「戦争中の暮しの記録―保存版」暮しの手帖編集部 著(暮しの手帖社)  

戦争中の暮しの記録―保存版

戦争中の暮しの記録―保存版

 

戦争中の暮しの記録―保存版

本書の構成の意義は、市井の人が自分の言葉で自分の経験を人に伝えるために書いたことです。「暮らし」が人に言葉を与える役割を果たしています。また同時に個人史の記録でもあります。

「台所に敗戦はなかった: 戦前・戦後をつなぐ日本食 」魚柄仁之助 著(青弓社)  

家庭の料理作りを担っていた大多数の母親たちは、無謀な戦争に突入しようが、敗戦で甚大な被害を受けようが、台所に立った。「この子らに食べさせなきゃ!」あるものをおいしく食べる方法に知恵を絞って胃袋を満たしていった。台所に敗戦が入り込む隙間などなかっのだ。飽食のいま、食糧難が生んだ和食文化を食べる!

関東大震災から敗戦後20年間に刊行された料理本や婦人雑誌から集めたもの。

 

「[決定版]ナチスのキッチン: 「食べること」の環境史」藤原辰史 著(共和国)  

[決定版]ナチスのキッチン: 「食べること」の環境史

[決定版]ナチスのキッチン: 「食べること」の環境史

 

ドイツ近代の「台所」「竈」の歴史をたどりつつ、やがて訪れるナチスは、どのようにキッチンを、そして栄養やエネルギーまでもを改変し、ファシズムに取り込んだのか。当時のレシピやキッチンの設計図など、入手できる限りの史料をつぶさに踏査し、「1分チャージ」のキャッチフレーズで知られるように栄養をとりこめば事足れりとする機能性重視の現代の食生活こそ、まさにナチス時代のそれだった、という歴史を検証しています。

台所という空間を、家庭内の「戦場」、あるいは台所用品を「武器」として捉える。ナチスは国民の意思統制をする上で、料理を利用したわけですが、食べ物が政治を通じて公共化された礼として見逃せません。

今に至るコンパクトでシステム化されたキッチンはナチス時代に完成したことが書かれています。工場労働者や兵士など、単一で平均的な人材を育てる中で、集合住宅のような概念が生まれ、人間の企画化が進みました。 

「もたない男」中崎タツヤ 著(新潮社)  

もたない男 (新潮文庫)

もたない男 (新潮文庫)

 

命と金と妻以外、なんでも捨てる!人気漫画『じみへん』作者は究極の断捨離オトコだった。空き部屋のような仕事場、妻を説き伏せ捨てたソファ、燃やしたらスッキリした大量の漫画原稿。憧れは、マザー・テレサのようなシンプルな生き方。けれど物欲も人一倍強く、好みの茶碗を求めて地方まで出かけたり…。極端すぎる捨て方に笑いが止まらない、異才の漫画家が放つエッセイ集。

啓蒙的な暮らしのヒントは一切ない。一種の哲学書じみた本。「ものを捨てる、捨てられないということは、けっこう生きていく上で根源的な問題だ」

「「下り坂」繁盛記」嵐山光三郎 著(筑摩書房)   

「下り坂」繁盛記 (ちくま文庫)

「下り坂」繁盛記 (ちくま文庫)

 

「宇宙の大原則は下降にあり、下ることを自覚した人間は強い」。人間いつまでも上を目指してばかりはいられない。体力が落ちてきたなと思ったら、上り坂から下り坂へギアの切り替えが必要だ。下り坂人生の極意さえわかればこんなにすばらしいことはない。あちこちガタガタだけど、ご意見無用、勝手に生きる。下り坂は自転車でも最高に気持ちいい!愉快な楽しい下り坂人生のあれこれ。。

自転車で下り坂を下りるとものすごく爽快な気分になると、著者の嵐山光三郎さんは賞賛します。日本が下り坂に入っているという認識のもとに下っていくことの楽しみ、生活の面白さを発見してそこに自分を会わせていくという発想には学ぶべきところがあります。

*1:エッセイスト。岡山県倉敷市出身。ノートルダム清心高等学校、東京女子大学文理学部社会学科卒業。アジアを中心として世界各地を取材し、食文化と暮らし、文芸と作家をテーマに執筆活動を行う。2006年『買えない味』で山田詠美の選考によりドゥマゴ文学賞受賞。2012年『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞