本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

辻山良雄さんが薦める新刊

新しい本に出会うには、信頼できる選者が薦める本を手に取るのが早道です。

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大型書店「リブロ池袋本店」の元統括マネージャー。同店閉店後に退職し、荻窪に「Title」という自分の店を開いた辻山良雄さんが薦める本です。

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 高度に情報化した社会への反動か、最近店に入ってくる本には「山伏」「ジビエ」「狩り」など、野性に向かった本も目に付く。

「猟師になりたい!」北尾トロ著(KADOKAWA

「猟師になろうと思う」家族への突然の宣言。中年になってから長野に移住したライターが、猟師になることを決意した!アウトドアに縁がない人生からどうやって猟師になった?猟銃講習会でいきなり試験、実射経験なしでの銃購入、20代女性猟師との出会い、命を獲ることへの家族の反応…。初シーズン、新米猟師は獲物を仕留められるのか?多くの先輩から教えを受けつつフントーした1年目の日々を気負わず綴ったレポ。

猟師になりたい! (角川文庫)

猟師になりたい! (角川文庫)

 

中年になって長野に移住した著者が、狩猟免許を取り、はじめて銃を手にして、山に入り獲物を探すまでの体験リポート。遠くに見える世界を、身近で「私にもできるかも」と思わせるような親しみやすい語り口。

 

「古代金属国家論」内藤正敏松岡正剛 著(リットーミュージック

「日本の背骨のように繋がっている山の中に、かつて山伏のアジールがあった。そこは治外法権で、『もう1つの国家』を形成していた。そして修験道密教は単なる呪術集団ではなく、高度な科学技術者集団でもあった」。そんな前提から、写真家、民俗学者内藤正敏松岡正剛の対話が始まります。時は1970年代後半、文化的な熱気をはらんだ時期です。「義経は山伏集団のリーダーだった」「秀吉と家康のマンダラ対決」「田沼意次は金属国家の仕掛け人、田中角栄」「大和政権=華厳思想VS.奥州藤原氏=浄土思想」など、さまざまな歴史的な事象が山伏、ミイラ、大仏、鉱物(金属)、植相などをキーワードに縦横無尽に語られていきます。

2人の碩学(せきがく)が自由闊達(かったつ)に語り合った「もう一つの日本史」。日本の山岳信仰、とりわけ東北地方の山々に広がる独自の文化に着目し、歴史の出来事に独自の解釈を施していく。対談は1970年代後半に行われ、奔放な想像力が新しい知を切り拓(ひら)こうとしていた時代の熱量を感じる。

「ちいさな城下町」安西水丸 著(文藝春秋

城址に立つと「兵どもが夢のあと」とでもいうのか、ふしぎなロマンに包まれる。なまじっか復元された天守閣などない方がいい―十万石以下の一番それらしい雰囲気を残す城下町を、地図を手に歩き、歴史に思いを馳せ、名物に舌鼓をうつ。城と歴史をこよなく愛した水丸さんの、味わい深い紀行エッセイ。

ちいさな城下町 (文春文庫)

ちいさな城下町 (文春文庫)

 

都会的なイメージが強い著者の、また違う一面が覗(のぞ)ける一冊。歴史に大きな名前を残さなかった人物に対してのやさしい共感が、どのページにも溢(あふ)れている。十万石以下の城下町に残る風情を尋ねて歩いた旅は、余韻が残る文章でさらりと書かれており、どこかに行きたくなります。