2016私の三冊
1「沈黙法廷」佐々木譲 著(新潮社)
東京・赤羽。絞殺死体で発見されたひとり暮らしの初老男性。親譲りの不動産を所有する被害者の周辺には、多くの捜査対象が存在する。地道な鑑取り捜査の過程で、家事代行業の女性が浮上した。しかし彼女の自宅に赴いた赤羽署の捜査員の前に、埼玉県警の警察車両が。彼女の仕事先では、他にも複数の不審死が発生していた―。舞台は敏腕弁護士と検察が鎬を削る裁判員裁判の場へ!無罪を主張する被告は証言台で突然、口を閉ざした。有罪に代えても守るべき何が、彼女にあるのか?丹念な捜査、緊迫の公判。新機軸の長編ミステリー。
五百ページを終えて最後の三ページに泣かされる。
2「異端者」勝目梓 著(文藝春秋)
波の音が聴こえる海沿いの家で、老境に達しようとする男が、自らの人生に思いをめぐらせている。そこには毒がある。蜜もある。禁断と倒錯のエロティシズムの果てに、甘くて危険な秘密が横たわっている……。
純文学作家として高い評価を受けながら、バイオレンスロマンの流行作家へ華麗なる転身を遂げ、官能文学の第一人者として長く君臨している作家・勝目梓。
近年は『小説家』や『老醜の記』などの私小説でも高い評価を受けている。
「さながら古酒の樽の栓を抜いたような、風味豊かな独白体」
逢坂剛が「朝日新聞」書評で作品を絶賛したが、石田衣良、小池真理子、山田詠美、重松清、北方謙三など、その作家性にリスペクトを寄せている作家も多い。
八十歳を超えて、さらに円熟味と凄みを増し、デビュー40年記念作品として書き上げた短篇集の「あしあと」に続いて、本格的な書き下ろし作品を発表する。
近親相姦、同性愛、SMなど、禁忌の性愛も描きながら、小説ならではのカタルシスに誘われる。
本物の作家による衝撃の長編小説である。
ある特殊な性癖を持った男の、人に語ることのできない性遍歴を通して、戦後史を描くという大胆な構成。
3「長谷川伸の戯曲世界 ― 沓掛時次郎・瞼の母・暗闇の丑松」鳥居明雄 著(ぺりかん社)
大正から戦後復興期まで、大衆文芸作家として一世を風靡した長谷川伸(1884-1963)。その作家像に対する論評においては佐藤忠雄、平岡正明、山折哲雄らのすぐれた仕事が残されてきたが、作品に沿った詳細な解題は見当たらないのが現状である。本書では、長谷川の全戯曲一六〇篇余の中から股旅物の嚆矢となった『沓掛時次郎』、長谷川の名を不動のものとした『瞼の母』、自他ともに認める最高傑作『暗闇の丑松』の三篇を採り上げ、細部まで読み解いていく。