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保阪正康さんが選んだ今年の三冊

2016私の三冊

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保阪正康(ノンフィクション作家・評論家・日本近現代史研究者。)さんが選んだ今年の三冊。

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1「フランクリン・ローズヴェルト 上 - 日米開戦への道」ドリス・カーンズ・グッドウィン 著(中央公論新社

アメリカ史上、唯一四選された大統領の決定版評伝。大恐慌からの再建と第二次世界大戦を指導したFDRの素顔と浮気に悩む妻エレノアとの愛憎やホワイトハウス、米国民の実情を克明に描く。上巻は中立からの方針転換、日米開戦へ。ピュリツァー賞受賞作。

フランクリン・ローズヴェルト 上 - 日米開戦への道

フランクリン・ローズヴェルト 上 - 日米開戦への道

 

次世代による評伝。客観的分析と主観的解釈のバランスが優れている。読んでいて安心できるのは、ローズヴェルトの能力、性格について信頼できるとの確信のもとに書かれているからであろう。 

2「密室の戦争――日本人捕虜、よみがえる肉声」片山 厚志 、NHKスペシャル取材班 著(岩波書店

第二次大戦中、太平洋の激戦地で捕虜となった日本兵。その尋問録音記録に残されていた衝撃の告白とは。連合軍の緻密な情報戦と冷徹な捕虜分析のもと、密室でただ一人、追及され、自問もし続けた戦争の真実――国が戦争をするのではない、人が人を殺すのだ。味方も所属もない一個人が直面した、尋問室での壮絶な闘いを再現するドキュメンタリー。

密室の戦争――日本人捕虜、よみがえる肉声

密室の戦争――日本人捕虜、よみがえる肉声

 

オーストラリアに設けられた日本人捕虜収容所での尋問記録をもとに書かれた。日本兵は「生」への希望を持つと、戦争への疑問と日本社会への不満を語るという。

3「現代語訳 巴里籠城日誌」渡正元 、真野文子 、松井道昭 著(ヨクトフォリオ

明治初期、ナポレオン三世帝政下フランスのパリに留学中だった安芸藩(広島)藩士、渡正元(わたりまさもと)が思いがけず遭遇した普仏戦争。多くの留学生が仏国外へ避難する中、パリ市中に留まり、その目と耳と足を使って見聞体感した戦時下の生々しい様子を記録したのが『巴里籠城日誌』です。明治4年に『法普戦争誌畧』として刊行され、大正3年に『巴里籠城日誌』と書名を変えて再刊されました。その内容の一部は、大佛次郎著作『パリ燃ゆ』に参照されています。
本書は、現代ではすっかり忘れられていたこの戦争見聞録を、横浜市立大学名誉教授松井道昭先生の監修のもと、読みやすい現代語訳にしたものです。幕末・明治の若き侍が見たヨーロッパの国、国民、戦争が、外国人ならではの視点から瑞々しく語られています。

現代語訳 巴里籠城日誌

現代語訳 巴里籠城日誌

 

巴里コミューンを目撃した日本の一軍人の記録。冷静な目で歴史の現場を描写していて、なにより巴里市民の興奮、戦い、そして建設などの細部が紹介される。この書に出会えたことで歴史観を変える者もあるだろう。