2016私の三冊
加藤出*1さんが選んだ今年の三冊。
1「経済学私小説〈定常〉の中の豊かさ」齊藤誠 著(日経BP社)
“失われた20年”と“15年デフレ”という迷妄を「実証」で吹き飛ばす。経済学と小説の“新結合”による渾身の日本経済論。
直視すべき日本経済の問題点を示してくれる。「魔法の杖」を求めたがる風潮を著者は戒めてくれる。
2「花の忠臣蔵」野口武彦 著(講談社)
「忠臣蔵をレンズにして眺めると、ただ元禄時代という過去の歴史の一齣だけでなく、日本に流れる時間のなかに住まう歴史の精霊(デーモン)の姿を正視することができる。元禄人に目を据える。と、元禄の死者たちもひたと見返してくる。その眼差しは、同時代だからこそかえってものを見えなくする死角を突き抜けて、現代の迷路をくっきり照らし出すにちがいない」
すなわち、いまなお日本人の心性の根底にあるものを、忠臣蔵という「虚構」の享受、語り口そのものを通じて洗いなおそうとする試みです。そのとき浮かび上がってくる普遍にして不変のものが「貨幣の専権」であることに読者は驚くはずです。
本書は、いわば野口版「忠臣蔵三部作」の掉尾を飾るものとなります。
貨幣経済が急拡大した元禄時代の文脈の中で忠臣蔵を捉えなおした意欲作。「松の廊下事件」の原因に、通貨改鋳によるインフレ説を紹介している天が特に興味深い。
3「スペース金融道」宮内悠介 著(河出書房新社)
人類が最初に移住に成功した太陽系外の星―通称、二番街。ぼくは新生金融の二番街支社に所属する債権回収担当者で、大手があまり相手にしないアンドロイドが主なお客だ。直属の上司はユーセフ。この男、普段はいい加減で最悪なのに、たまに大得点をあげて挽回する。貧乏クジを引かされるのは、いつだってぼくだ。「だめです!そんなことをしたら惑星そのものが破綻します!」「それがどうした?おれたちの仕事は取り立てだ。それ以外のことなどどうでもいい」取り立て屋コンビが駆ける!新本格SFコメディ誕生。