2016私の三冊
1「クレムリン 赤い城塞の歴史(上)(下)」キャサリン・メリデール 著(白水社)
神話と伝説に満ち、今なおロシアの「心臓部」を探る試み。
中世のモスクワ大公国からタタールのくびき、エカチェリーナ大帝まで、権力者と民衆、戦争と革命、建築と聖都など、陰影豊かに描く通史。
クレムリンという国家の一地点を対象とする通史が、同じく別の国家の一地点との比較を通して、新たな思想哲学を切り開く可能性を秘めていることを教わった。
2「また、桜の国で」須賀しのぶ 著(祥伝社)
一九三八年十月一日、外務書記生棚倉慎はワルシャワの在ポーランド日本大使館に着任した。ロシア人の父を持つ彼には、ロシア革命の被害者で、シベリアで保護され来日したポーランド人孤児の一人カミルとの思い出があった。先の大戦から僅か二十年、世界が平和を渇望する中、ヒトラー率いるナチス・ドイツは周辺国への野心を露わにし始め、緊張が高まっていた。慎は祖国に帰った孤児たちが作った極東青年会と協力し戦争回避に向け奔走、やがてアメリカ人記者レイと知り合う。だが、遂にドイツがポーランドに侵攻、戦争が勃発すると、慎は「一人の人間として」生きる決意を固めてゆく。“世界を覆うまやかしに惑わされることなく、常に真実と共にあれ”との言葉を胸に。
小生にするにはきわめて難しいテーマを選んだ著者の挑戦にひかれるとともに、ワルシャワに対する熱い視線に共感した。
3「狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ」梯久美子 著(新潮社)
戦後文学史に残る伝説的夫婦の真実に迫り、『死の棘』の謎を解く衝撃大作。
島尾敏雄の『死の棘』に登場する愛人「あいつ」の正体は?
あの日記には何が書かれていたのか。
ミホの書いた「『死の棘』の妻の場合」は、なぜ未完成なのか。
そして本当に狂っていたのは妻か夫か──。
未発表原稿や日記、手紙等の膨大な新資料によって、
不朽の名作の隠された事実を掘り起こし、
妻・ミホ生涯を辿る、渾身の決定版評伝。
島尾ミホという対象と共振して「狂うひと」にならなければ描き得ない評伝。男性であっても書けたのか。