本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

武田徹さんが選んだ今年の三冊

2016私の三冊

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武田徹*1さんが選んだ今年の三冊。

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1「「共生」の都市社会学 下北沢再開発問題のなかで考える」三浦 倫平 著(新曜社

◆「知らないうちに道路ができちゃった」と後悔しないために
現代の都市は、様々な人々が共に生きる=「共生」の側面が強くなっています。にもかかわらず、社会学はこの問題をあまり重視してきませんでした。本書は、この「共生」の問題をルフェーブルの「都市への権利」などの考えに遡って問い直し、そこにある問題とは何か、どのように解決できるのかなどを、根源から問い直します。その際、具体的な考察の対象となるのが、下北沢という街の再開発をめぐって起きた紛争です。七〇年代以降、独自の発展をしてきたこの街を愛する人々が、行政や企業のやり方に対して、やむにやまれず立ち上がった運動ですが、この町に住む人、地主、商売する人、遊びに来る人など、様々な形で運動に関わる人々へのインタビューを通して、多様な考え方・運動のあることが浮かび上がり、解決への道筋が暗示されます。まだ解決に至っていませんが、理論としてだけでなく、運動の記録としても貴重な、力作です。

「共生」の都市社会学 下北沢再開発問題のなかで考える

「共生」の都市社会学 下北沢再開発問題のなかで考える

 

サブカル都市「下北沢」を事例に住むものだけでなく、文化享受者をもアクターとみなし、それぞれの権益を調整する視点を導入。二項対立からの脱却を探る。 

2「樺太を訪れた歌人たち」松村正直 著(ながらみ書房)

戦前には多くの歌人樺太を訪れ、歌を残したが、今では樺太に触れる人が少なくなった。戦前に樺太を訪れた歌人や、樺太に住んでいた歌人、彼らの歌について論じる。著者のサハリン紀行も収録。『短歌往来』連載を加筆修正。

樺太を訪れた歌人たち

樺太を訪れた歌人たち

 

歌人の著者が往年の歌人たちの足跡を辿った。歌に結晶していた「日本帝国北限の領土」の記憶と記録が時をまたいで蘇る感覚が鮮やか。

3「全裸監督 村西とおる伝」本橋信宏  著(太田出版

村西とおる、本名・草野博美。工業高校卒業後上京。どんな相手でも陥落させる応酬話法によって、英会話教材販売売り上げで日本一達成(1つ目の日本一)。インベーダーゲームのブームに乗り、ゲーム機設置販売で財を成す。ビニ本裏本の制作・販売業に転じ、業界日本一になる(2つ目の日本一)。指名手配され逮捕。再起を図ってAV監督になり、“駅弁"“顔面シャワー"など次々と新機軸を考案。ハワイで撮影中にFBI合同捜査チームに逮捕され懲役370年を求刑される。黒木香主演「SMぽいの好き」でみずから相手を務めて、“AVの帝王"と呼ばれ、業界日本一に(3つ目の日本一)。ジャニーズ事務所に喧嘩を売り、元フォーリーブス北公次復活をプロデュース。事業拡大に失敗、50億円の債務を負う。前科7犯。無一文になりながら専属だったAV女優と再婚、長男をお受験の最難関小学校に合格させた。そのどれもが実話である。

全裸監督 村西とおる伝

全裸監督 村西とおる伝

 

反骨ぶりから情の厚さまで全てが過剰な男の「ナイス」な本格評伝。 

 

*1:評論家、ジャーナリスト、恵泉女学園大学人文学部教授