本屋は燃えているか

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蜂飼耳さんが選んだ今年の三冊

2016私の三冊

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蜂飼耳(詩人、エッセイスト、小説家。早稲田大学文化構想学部教授。神奈川県座間市在住)さんが選んだ今年の三冊。

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1「炎と苗木 田中慎弥の掌劇場」田中慎弥 著(毎日新聞出版)

7年にわたり書き続けてきた田中文学の結晶。
<掌の小説>集大成、衝撃の44篇!

1篇1600字に世界が凝縮。生と死、過去と未来、絶望と希望、作家のイマジネーションが、いま、あらゆる境界を突破する。<田中慎弥の聖書>とも言える標題作はじめ、小説の醍醐味に満ちた作品が織りなす圧巻の文学体験。2012年に出版界の話題をさらった『田中慎弥の掌劇場』の第2弾。

炎と苗木 田中慎弥の掌劇場

炎と苗木 田中慎弥の掌劇場

 

どの一行も、動かしようがない凝縮度を見せ、視線をそらさせない。「自由の首輪」「国益の作家」などのタイトルからも想像できる風刺の、絶観ような味を、力のある文章が支え切る。 

2「乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽」沖本幸子 著(吉川弘文館

12世紀後半から13世紀前半、白拍子・乱拍子というリズムが大流行した。庶民のみならず貴族や寺院社会を席巻したこの芸能はいかなるものだったのか。すでに滅びてしまった芸態を復元し、いまに伝わる能楽にどのように包含されているのか考察する。中世芸能が花ひらく直前、人々が身体表現の楽しさを知り、うきうきと舞い始めた時代を描き出す。

乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)

乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)

 

白拍子、乱拍子などの滅びたリズムが、現代につながる能の根源「翁」の成立にいかに関わるかを追求する労作。見えるものを通して見えなくなったものを考える。

3「神話で読みとく古代日本: 古事記日本書紀風土記」松本直樹 著(亜紀書房

古事記』『日本書紀』は、ただの神話ではない。新しい国家の実現を目指し、大和王権が各地で口承されていた神話の力を利用して創作した、極めて政治的な“神話”である。本書では、この二つの“建国神話”をどのように読めばよいのかを説き、また「風土記」を読みとくことで、国家・地方間のダイナミックなテキストの攻防を明らかにする。地方が“建国神話”を受け入れたとき、「日本人」の自覚と、精神史上の「日本」が誕生した。その過程を目撃せよ。

神話で読みとく古代日本: 古事記・日本書紀・風土記 (ちくま新書)

神話で読みとく古代日本: 古事記・日本書紀・風土記 (ちくま新書)

 

「神話」をめぐる国家と地方の攻防と、それがもたらしたものに迫る。