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本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品 マンガ部門

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2016年度・第20回文化庁メディア芸術祭の審査も大詰めを迎えていることと思います。例年のスケジュールでは、2月上旬には受賞作品展が、東京・乃木坂の国立新美術館で開催される予定です。人気のコミックにはない質感や発見、そして感動に出会えるので今から楽しみです。さて、前回の受賞作品を振り返ってみましょう。

第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品 マンガ部門 

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大賞「かくかくしかじか」東村 アキコ*1 著(集英社

少女マンガ家を夢見ていた頃から、夢を叶えてマンガ家になるまでとその後の半生を題材にした自伝的作品。「自分は絵がうまい」とうぬぼれていた高校3年生の林明子(はやしあきこ)は、美術大学入学を志し、海の近くにある美術教室に通うこととなる。そこで出会った絵画教師・日高健三(ひだかけんぞう)は、初対面で絵画教師とは思えない強烈なインパクトを放ち、明子が描いたデッサン作品を見るなり、竹刀を振りかざして「下手くそ」と言い切った。そこから日高先生と明子、2人の物語が始まっていく─。作者の人生に大きな影響を与えた恩師との数々の思い出とともに、自らの高校生活から大学での生活、そしてマンガ家デビューへの道のりを描く。マンガを「描く」ことへの愛が、個性的なキャラクターたちとさまざまなエピソードを通して表現され、笑いと涙の要素が随所に盛り込まれた作品。
Cocohana』(集英社
連載開始:2012年1月号
連載終了:2015年3月号 

東京タラレバ娘」「ママはテンパリスト」などでおなじみの鋭い人間観察眼が自身に向けられた渾身作。結論は第一巻から予想できるのですが作り手の生業をしている人の魂に、とくに響く作品です。 

archive.j-mediaarts.jp

優秀賞「淡島百景志村貴子*2 著(太田出版

「女性だけの歌劇学校」というひとつの場所に集まり、同じ時間を共有した少女たちのかけがえのない青春の日々が、人物の視点を変えて、ときには時代を超えて、オムニバス形式でつづられた青春群像劇。淡島歌劇学校合宿所、通称“寄宿舎”には、舞台に立つことを夢みる少女たちが全国から集まってくる。ミュージカルスターに憧れて入学した田畑若菜(たばたわかな)、親友の思いを背負って学び続ける寮長の竹原絹枝(たけはらきぬえ)、周囲の視線を集める美しき特待生の岡部絵美(おかべえみ)、女優一家に育ちながらも教師の道を選んだ伊吹桂子(いぶきかつらこ)。歌劇学校という特殊な空間は、胸いっぱいの憧れをかかえた少女たちがともに憩う場であると同時に、年端もいかない生徒同士の苛烈な闘いが繰り広げられる場でもある。たゆまぬ努力が実り、才能が花開く場であり、残酷な現実が少女の前に立ちはだかる場でもある─。透明感あふれる絵柄と心理描写から、登場人物の内面が繊細に紡ぎだされている。
『Web連載空間ぽこぽこ』(太田出版

淡島百景 1

淡島百景 1

 

 

優秀賞「弟の夫」田亀源五郎*3 著(双葉社

同性婚をテーマに、一般社会のなかでのゲイを描いた作品。弥一(やいち)と夏菜(かな)、父娘2人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。彼は、弥一の双子の弟・涼二(りょうじ)の結婚相手だった。涼二はカナダでマイクと同性婚をし、その後亡くなったのだった。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚ってできるの?」と幼い夏菜は、突如現われたカナダ人の“おじさん”マイクに大興奮、たちまち意気投合し仲良しになる。一方の弥一は、しばらく日本に滞在することになったマイクと一緒に暮らすうちに、自身のなかにあった偏見に気づいていく。そして、成長とともに自然と距離ができてしまった亡き弟・涼二への想いを深めていくことになる。海外でも高い評価を得ている作者による初の一般誌連載作品である。
月刊アクション』(双葉社) 

 

優秀賞「機械仕掛けの愛業田良家 著(小学館

“心”に似た機能を持つロボットたちが、近未来の地球各地で織りなすさまざまな寓話からなるオムニバス集。持ち主に飽きられたロボットの女の子が、愛された記憶を頼りに“お母さん”を捜す「ペットロボ」、人間の遺言で自由を手に入れた介護ロボの苦悩を描く「介護ロボ広沢さん」、思い出を託された執事ロボが、主人との約束を果たすために選んだ道を追う「リックの思い出」など、人間のために働くロボットたちを軸に、物語は展開される。
街にたたずむ自販機ロボ、本を愛する刑事ロボなど、プログラムされた機能を果たしているだけの彼らは、その純粋な“機能”をもって、人間たちに語りかける。これまで「人生に意味はあるか」「人間の想いは永遠であるか」などのテーマを描いてきた作者が、ロボットの営みを通して「人間とは何か」「“心”とは何か」を表現した作品である。

機械仕掛けの愛 1 (ビッグ コミックス)

機械仕掛けの愛 1 (ビッグ コミックス)

 

 

優秀賞「Non-working City」HO Tingfung 著

台北市のどこかにあると噂される架空の都市「Non-working City」を描いたマンガである。そこは仕事も競争もない、自足したパラダイスで、すべてが信じられないほど美しい。毎月決められた人数だけその都市に入ることができるが、正確な入口を把握している者はいない。そんな「Non-working City」に、借金に苦しむカップルが期せずして入り込む。彼らはそこで、運動エネルギーを都市を機能させる電気エネルギーに変換できるエクササイズ・マシンなどを目にし、仕事だけがサバイバルの方法ではないことに気づかされる。「Non-working City」の風景は、「桃源郷」の由来となった中国の散文作品『桃花源記』の描写を参考にしながら、現実の台北市と仮想都市が結びつけられて描かれている。本作では、機械化時代の到来以来、人々が夢見続けてきた「労働のない社会」が描かれる。機械的な都市、資金分配の不平等性、現代の社会的権力構造に光をあてた作品である。

 

新人賞「エソラゴト」ネルノダイスキ*4 (同人誌)

人や動物、無機物があたりまえのように会話する「童話」的世界を描いた全7本の短編集。家の中で壁に埋まった同居人と主人公の日常を綴(つづ)る「エソラゴト」、死後の世界に行けるという話を聞いた主人公がパソコンで検索して発見し、その場所を訪ねる「アザーサイド」、柴犬の尻をクリーニングする会社へ就職する「コーサ」、畑に突如として現われた白く巨大な生き物の退治を害獣駆除専門家にお願いする「へのへのもへ」ほか、いずれの短編でも緻密に描かれた背景上に簡略化された猫のようなキャラクターが主人公に据えられている。現実と似ているが、よく見ると異なる常識や風習、価値観をもつ風変わりな住人たちが暮らすパラレルワールドを描いた作品。

nerunodaisuki.tumblr.com

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新人賞「たましいいっぱい」おくやまゆか*5 著(KADOKAWA

テーマはファンタジーからありふれた日常のドラマまで多彩ながら、一貫したユニークなスタイルで展開される短編作品集。空想とユーモアが横溢するナンセンスな連作「しりこだまラプソディ」、貧しく幼い兄弟が愛馬をマーケットへ売りにいく切なくも温かいオリジナル童話「オスカーは毛並みのいい馬」、古典落語の名作怪談噺を独自の視点でマンガ化した「三年目」など、それぞれの物語には、優しさと哀しみに溢れた世界へのまなざしが通底している。大学卒業後にさまざまな職種を経験した作者が、デビュー以来5年間に発表してきた短編作品をまとめた本作品は、揺るぎない清新さと個性を併せ持ち、不思議な世界へと読者をいざなう。

たましい いっぱい (ビームコミックス)

たましい いっぱい (ビームコミックス)

 

yurako.blogspot.jp

新人賞「町田くんの世界安藤ゆき*6 著(集英社

物静かで、周囲からは生真面目と思われているが、成績は中の下、運動神経は悪く、機械も苦手で不器用。そんな「町田くん」の日常を描いた作品。町田くん自身は、自分には「得意なことが何もない」と憂いているが、じつは周りの人々から深く愛されている。それは、「人を好き」で、誰にでも分け隔てなくそっと優しさを届けるからであり、彼の言葉や行動の一つひとつが周囲の人たちの心のすき間をそっと埋めていく。本作は、町田くんを通して見える世界を丁寧に描くことによって「人の温かさ」を感じさせてくれる。これまで主に短編作品を描いてきた作者の初の連載作品であり、少女マンガながら男女問わずに楽しめる作品となっている。

 

 

*1:1975年、宮崎県生まれ。マンガ家。金沢美術工芸大学で油絵を学ぶ。1999年に『フルーツこうもり』(集英社)でデビュー。代表作に『ママはテンパリスト』(集英社)、『海月姫』(講談社)など

*2:1973年、神奈川県生まれ。1997年、『ぼくは、おんなのこ』でデビュー。代表作『青い花』『放浪息子』はTVアニメ化された。そのほかの主著に『どうにかなる日々』『こいいじ』など

*3:1964年、神奈川県生まれ。ゲイ・エロティック・アーティスト。代表作に『銀の華』『君よ知るや南の獄』。海外での評価も高く、個展活動も行なう

*4:1978年、宮城県生まれ。絵や立体を制作して展示発表などを行なう。2013年のコミティアで初めて描いたマンガを出品し、その後自主制作マンガの発表を定期的に行なっている

*5:早稲田大学卒業。福岡県出身。東京在住。絵本作家、挿絵画家としても活動中

*6:大阪府生まれ。2004年に『星とハート』でデビュー。『別冊マーガレット』(集英社)を中心に活躍。現在、同誌に『町田くんの世界』を連載中