コミックコーナーに推すべき本を必死になって追いかけている中、発見したのがこの一冊。
「五色の舟」近藤ようこ 著(KADOKAWA / エンターブレイン)
津原泰水の傑作幻想譚(たん)が、近藤ようこの手によって儚くも鮮烈にマンガ化された作品。先の見えない戦時下、太平洋戦争末期を時代背景に、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ異形の者たちの哀切な運命が描かれる。主人公は、脱疽(だっそ)で足を失った元花形旅役者・雪之助(ゆきのすけ)、一寸法師だが怪力の昭助(しょうすけ)、結合双生児だったが手術を受け一人蛇女として生きる桜(さくら)、膝関節の障害を逆手に牛女となった清子(きよこ)、そして両腕のない少年・和郎(かずお)の5人。彼らは古い舟を住処(すみか)として、まるで家族のように暮らしていた。ある日、未来を言い当てるという怪物・くだんの噂を知った雪之助は、一座の仲間にしようと家族総出で岩国に向かうことに。くだんは既に軍の手中にあったが、目を合わせた和郎は、その日から舟で海原を漂い、離合集散を繰り返す一座の夢を見るようになる。これはくだんの仕業に違いないと確信した和郎だったが―。小説での発表も困難と目された原作に、近藤ようこが挑んだ奇跡のマンガ化作品。
『月刊コミックビーム』(エンターブレイン)連載開始:2013年8月号連載終了:2014年3月号
舞台は広島。さらに障害を抱えて生きる人たちが登場するということもあり、様々な配慮に神経を使わなくてはならない作品か、と思いました。
最近になってようやく障がい者プロレスのような試みもテレビで紹介できるようになりましたが、自分とは違う他者に対する不寛容は広がりつつあります。主人公たちの欠損した身体や人物描写を漫画家の近藤ようこ氏は原作から丁寧に切り離し、再構成してビジュアル化しました。
原作のメッセージを損なわず、昇華させる漫画家の力量を感じさせるシーンです。「この世界」とあわせて並べてほしいと提案して見ます。
当事者の生き方を損なわない、邪魔しない、気持ちになって考えるというのがメディアを発信する側に求められる立ち位置なのだと感じます。
慎重になりがちな制作者の悩みを吹き飛ばしたのが、本作の冒頭とラストシーンを飾る「色とりどりの襤褸をまとったあの美しい舟の上に」 という言葉です。原作は津原泰水氏の「11 eleven」に収録された40頁ほどのSF的な要素も入った短編ですが、端正なつくりで想像が羽のように広がり、重いパンチのように響きました。