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Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男

佐々木健一ディレクターの本です。

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「Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男」佐々木健一*1 著(文藝春秋 

藤田哲也という天才科学者(1920-1998)がいた。専門は気象学。32歳のとき渡米し、シカゴ大学の教授にまで上り詰め、「Mr.トルネード(竜巻)」と呼ばれた。藤田の人類への最大の功績は、1970年代に続発していた飛行機事故の原因を「ダウンバースト」という気象現象だと突き止め、飛行機事故を激減させたことである。
ダウンバースト」とは、突発的に非常に狭い範囲で生じる下降気流であり、起きる直前でなければ、予測不能である。今日、私たちが安心して飛行機に乗れるのは、彼のおかげなのだ。
だが、この功績は、藤田が活躍したアメリカでは広く知られているが、日本ではほとんど知られていない。それだけではない。藤田がどのような人生を歩んだのかが、わかってきたのは、ここ数年のことだ。
本書の著者・佐々木健一氏は、そんな藤田哲也の人生に強く惹かれ、アメリカ全土、総移動距離3万キロを超える取材を敢行して、その人生を追いかけた。
そして、NHKのテレビ番組「ブレイブ 勇敢なる者」シリーズの第一弾として、藤田の人生を描く「Mr.トルネード」を制作した(2016年5月2日放映)。

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本書は、「ダウンバースト」現象の解明を軸に、番組には収めきれなかった成果を盛り込んで書き上げられた、世界初の藤田哲也の本格的評伝である。

出版物がテレビの企画の母になることは珍しくありません。テレビの放送と出版化が同時進行するとテレビで見て本で深めるという読者にとっての楽しみは増えます。本書は「ドキュメンタリストから異端視される」という異色のディレクター・佐々木健一さんの作品と聞くと放送関係者は手に取らざるを得ません。

bunshun.jp

2016年5月2日に放送された、ブレイブ 勇敢なる者「Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~」(NHKエデュケーショナル)は科学ジャーナリスト賞2017に輝いた佳作です。

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男
 

 

*1:1977年、札幌生まれ。早大卒業後、NHKエデュケーショナル入社。ディレクターとして『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」などの特別番組を企画・制作。NHK以外でも『ヒューマン・コード』(フジテレビ)を企画・制作。『ケンボー先生と山田先生』で第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞、『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA』で米国際フィルム・ビデオ祭 2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、「Mr.トルネード」で科学ジャーナリスト賞2017、「えん罪弁護士」で第54回ギャラクシー賞選奨、第33回ATP賞奨励賞を受賞。『辞書になった男』(文藝春秋)で第62回日本エッセイストクラブ賞を受賞。最新刊は『神は背番号に宿る』(新潮社)、『Mr.トルネード』(文藝春秋)。