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ブラック・フラッグス:「イスラム国」台頭の軌跡

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ブラック・フラッグス:「イスラム国」台頭の軌跡」ジョビー・ウォリック 著(白水社

ザルカウィとその後継者を中心に、ISが生まれた背景から現在に至るまでを詳細に描いたノンフィクションである。街のチンピラがアルカイダとつながって国際的なテロ組織を主導するようになった背景には何があったのか。イラクフセイン政権打倒に走った米国失策の誘因とは――。200人を超える関係者らの生々しい証言と精緻な裏づけにより構成され、丁寧な人物描写と複雑にからみ合った相関関係から、組織の構造や事件・事象の全体像を鮮やかに浮かび上がらせる。
中東取材20年のジャーナリストが独自の人脈を駆使し、スパイ小説さながらの手に汗握る筆致でISの変遷と拡大の背景を描き切った、調査報道の白眉。

イスラム国の扱われ方に隔世の感を感じます。事件当初、テレビは連日連夜のようにイスラム国を取り上げ、テロとの戦いという言葉を聞かない日はありませんでした。イスラム国が武力制圧されてしまった今、日本にいるとあの事件は解決済みとなった過去の話題のようです。組織が壊滅されたからといって事件が解決したわけではありません。人々を極端な方向に誘った原因を理解しないと、第二第三の事件が起きる危険は残されています。

本書は、ザルカウィに絞ってISの変遷と拡大の動きを追った記録です。人に絞ったことにより出来事が"明日はわが身"のように、身近なものとして迫ってきます。

修羅場を数多く経験してきた欧米社会では、数多くの当事者証言を積み上げることで真実に肉薄する精神風土があります。検証とはジグソーパズルを組み立てることそのものです。

ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡

ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡