本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

少女終末旅行

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少女終末旅行」つくみず 著(新潮社)

文明が崩壊した終末世界。愛車のケッテンクラートで廃墟をあてもなく旅するチトとユーリの日常を描く、ほのぼのディストピア・ストーリー

自分のブームをつくり、それが世の中のブームになるまで語り続けるうちに、世の中が追いかけるように面白がり始める。みうらじゅん氏が「ない仕事の作り方」で言っていました。

私が名づけたブームのほとんどの名称は、水と油、もしくは全く関係がないものを結びつけるようにしています。(中略)A+B=ABでなく、A+B=Cになるようにするのです。そしてAかBかのどちらかは、もう一方を打ち消すようなネガティブなものにします。この「ゆるキャラ」は、その最たる例と言えるでしょう。

「誰も見向きもしないことを面白がり、”面白い面白い”と言い続けることがヒットの秘密だ」というのなら、意外に伸びるかもしれないのがこの本です。http://www.kurage-bunch.com/manga/shojoshumatsu/01/img/1.jpg

本書はWEB漫画サイト「くらげバンチ」で連載中の漫画を出版化したものです。

コミックバンチはかつて新潮社が発行していた青年コミック誌です。

終末世界に取り残された二人の少女がケッテンクラート*1に乗って宛もない旅を続ける物語。

どこか「BLAME!(ブラム)」や「キノの旅」的な脱力した世界観を感じます。

萌えの要素があるようで微妙。ミリオタ御用達のようでいてこれも微妙な作品。

このどこかほのぼのとしたディストピア世界には危険な香りが漂っています。

明日が見えない舞台設定の中でなんとなく続く日常世界。もがかない。苦しまない。しかし前に向かって歩き続ける主人公たち。

この作品は何を訴えたいのかと読み進めるうちに、自分たちもその世界の住人になってしまっているのに気づくからです。

鉛筆で描かれたデッサンのような作風は、今流の緻密でリアルな描写から見ると隙きだらけのように見えます。話のオチがないところはギリギリ同人誌レベルといってもいいかもしれません。

しかし次のページをめくりたくなります。

描かれていることのうち半分以上を読者の想像にまかす作品です。

アニメーション制作者たちを刺激してやまないだろうと思っていたら案の定。10月のテレビアニメシリーズとして放送が決まったようです。

実写ドラマでどこまで撮れるか。企画のネタ本にと、店頭に目立つよう並べることにしましょう。

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*1:第二次世界大戦期にドイツで開発された半装軌車