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パリコレで数学を

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「パリコレで数学を」阿原一志 著(日本評論社

ファッションブランドが「ポアンカレ予想」に挑む。幾何化予想の提唱者ウィリアム・サーストンより贈られた「8つの宇宙の絵」の謎に迫る!

著者の阿原一志さんは明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科で教鞭をとる大学教授です。この本を上梓することになったいきさつはブログにまとめられています。イッセイ・ミヤケの2010秋冬パリコレのこと その6|阿原 一志のブログ

 

宇宙は球体か?という問題は100年前ポアンカレ*1 により解答が予想されました。以来多くの数学者が証明を試みましたが解は出ませんでした。

アメリカの数学者サーストン(1946~2002)は3次元宇宙がとりうる形はいくつあるかを予想し、宇宙は8つの形状もしくはその組み合わせで成り立つという、サーストンの幾何化予想を提起しました。これにより、およそ100年にわたり未解決だった3次元ポアンカレ予想が証明されることになったといいます。

未解決だった世紀の難問はNHKスペシャルの「ポアンカレ予想」で放送されました。

サーストンの描いた8つの宇宙の絵。

この番組に興味を示したのが、2010秋冬のパリコレを前にデザイナー・三宅一生さんの「イッセイ・ミヤケ」コレクションでした。

プロデュースしていた3代目のデザイナーの藤原大(ふじわら・だい)さんがレディースの企画の段階で見て、これをパリコレのテーマにできないか,と企画を立てたそうです。

その「数学コーチ」としてサポートを行ったのが著者の阿原一志さんでした。

数学から離れて久しいデザイナーさんたちであって,かつ「仕事として取り組むためにどうしても分からなければいけない」という状況にあります

「幾何とはなにか」「結び目(絡み目)とはなにか」「球面幾何,双曲幾何とは何か」という根本的な問題から始めて「どうしてこれらが宇宙の形なのか」「軌道体とはなにか」「幾何と結び目の関係は」という本質的な問題を語りながら,「服作りへのアドバイスとなるように」語っていった。

 この本の主旨は専門知識をかみ砕いて説明していくことの難しさと楽しさが詰まっています。

*1:1854年フランス生まれの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。