本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

残念和食にもワケがある 写真で見るニッポンの食卓の今

f:id:tanazashi:20171207173643p:plain

 

人の暮らしを調査する学問といえば文化人類学
その方法としてよく使われるのがフィールドワークです。対象となる人や物の傍らに立ち、対象のあるがままを取材するのが基本です。
ドキュメンタリーの取材に似ています。
取材を続けるうちたいていの取材者は先入観を打ち砕かれることになります。
驚く人もいれば嫌悪感を覚える人だっています。
それまで見えてこなかった対象物の姿に接することは
自分の持つ高貴な部分、そして醜悪な部分鏡で見るようなものなのかもしれません。

かねてから、そんな切り口で伝えるやり方もあると思っていたのが食卓の話題。
料理番組やグルメ番組で見るような献立ではなく、
等身大の食卓を切り取って見せる方法です。*1

この困難な課題に挑戦したのが

「残念和食にもワケがある
写真で見るニッポンの食卓の今」岩村暢子 著
中央公論新社

400人以上のアンケート、1万5000枚以上の食卓写真をもとに家庭の和食の驚くべき変化を描き出す。という本です。

f:id:tanazashi:20171207170916j:plain

そこから見えてきたのは、日本人が普段食べているから"日本食"だと私たちが思い込んできた常識とかけ離れた食卓の存在です。

「確かに家族の勝手ですが、それなりに栄養があっておいしいものを子どもに食べさせたいと思う私には、ちょっと受け入れがたいメニューが並んでいました。」
「この食生活で大人になってしまう子供が怖い。」

「これが本当のことだろうかと疑問に思うが、まあいろんな家庭があるからと納得するしかない。」

 

f:id:tanazashi:20171207170937j:plain

 

手心を加えない取材方法も徹底しています。

▼著者のプロジェクトでは無作為に選んだ主婦の一週間の食卓を写真と文章で記録させる。カメラは著者側が用意、デジカメは使わせない上 未現像のままフィルムで回収。見栄に疲れた主婦が最後で外食に走らぬよう平日~平日の7日間を設定するドS三昧。その結果の赤裸々たること火の如し▼夫不在の夕食は手抜き・最初の3日間程は見栄と理想の典型食卓図になるあたり笑って見てられるうちはいい。喜劇というより悲劇?

 

 


"貧困きわまれり"と思わず目を背けたくなるような、現代の家庭の姿や考え方の変化が見えてきます。

家族の前で不用意に開いて話題にすると惨劇が起こりそうな本ですが、

ふと気がついて自分の食事を悔い改めるきっかけになる本かもしれません。

*1:「突撃、隣の晩ご飯」という方法もありましたが、それは番組的にはリアクション狙いのもので、食卓そのものをあるがままに見るものではありません。