「アクシデント・レポート」 樋口毅宏*1 著(新潮社)
史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した著者が満を持して放つ大長篇。御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。しかも今度は一機だけでなく、ブラックボックスが見つからず真相は闇に覆われる。事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる人間模様、政府と企業の体たらく、文化芸能、沖縄・原発の問題、そして隠されたこと。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。
「アクシデント・レポート」とは一体何か
主に医療の現場で使われている言葉のようです。
アクシデントと対になって「インシデント・レポート」という言葉があります。
放っておくと事故に繋がるような問題。例えば警報灯の電球が切れているのを発見した、蛇口を閉め忘れ水が流れっぱなしになっていたなど、いわば”事故の卵"のようなものを「これはまずい、あとあと何かが起こる」と報告書にまとめると「インシデント・リポート」になります。
「アクシデント・リポート」は、実際に事件・事故が起きてしまった事柄を報告し、「再発防止」に繋げることだと言われます。
報告書は始末書ではない
インシデントにせよ、アクシデントにせよ、「レポート」・「報告書」は「始末書」とは異なります。
看護婦向けに書かれたブログにその違いが分かりやすくまとめられています。
始末書とは、過失を反省し、今後このようなミスを繰り返さないようにするために事情とお詫びの気持ちを書いて提出するものです。
報告書は、インシデントやアクシデントの経緯を、その事例を知らない医師や看護師に伝えるというのが目的です。
なぜ、どういう経緯で、どういうミスを犯したのかをしっかり確認し、今後の医療に生かすためにあるものです。
自分に有利になるように事実を曲げて書いたりせず、今後、同じことが起きないような対策を講じるために報告書が使われるのだと考えて、正確に書きましょう。
他の人のインシデントレポート・アクシデントレポートを見るときは、自分だったらどうするだろうか、と自分のものとして読まなくてはいけません。
「こんなミスをするなんて、どうかしているんじゃないの?」などと批判したり、面白がったりする看護師もいますが、インシデント・アクシデントレポートの意味を考えると、そんなことはできません。
本書はノンフィクションではなく、小説です。
正確に言うと"非・アクシデント・リポート"ではありますが、
描かれた事象を「自分だったらどうするのだろうか」と自分のものとして読むと、
現代社会を見る目が少し晴れていくような気がしてなりません。