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#ブレイディみかこ「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」

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「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」ブレイディみかこ 著(みすず書房

「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。

2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。 著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。 地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。

現実社会に潜む矛盾や軋轢はいちばん弱いところに端的に表れます。

物事に例えるなら、ボールベアリングのベアリングです。

書名の持つ「階級闘争」の固い印象とは異なったアナーキーな活力やからりとしたユーモアが救いとなる異色のルポです。

ベアリングの具合を眺めつづけることがジャーナリストとしての基本姿勢の一つであることをこの本は教えてくれます。 もちろん「虫の眼」のように現場を見続けることだけでなく、大所高所から「鳥の目」を使って敷衍することも大切です。

通信技術の進歩で誰もが大所高所から情報を発信することが可能になった今、現場に寄り添い現場でしか見えないことをすくい取る試みが若干薄くなったような気がします。

生きることを見つめる姿勢の大切さを改めて教えてくれる本です。