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#中山七里「護られなかった者たちへ」

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「護られなかった者たちへ」中山七里 著(NHK出版)

仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。
一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
三雲の死体発見から遡ること数日、一人の模範囚が出所していた。
男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か? なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか?

河北新報南日本新聞岐阜新聞などの地方紙で連載された新聞小説が単行本になりました。

推理小説ですが、中身は丹念に福祉の現場を取材した社会派小説です。

福祉の当事者の多くは社会的弱者です。

新人ジャーナリストの多くは取材にあたって、どうしても「社会的弱者」の固定観念が捨てきれず、社会正義を声高に叫びがちです。

それはそれで必要なことですが、福祉の現場に佇む人たちもまた私たちと同じ人間だということを忘れてはなりません。

それはどういうことかというと、喜怒哀楽の感情を持つだけでなく嫉妬や欲望も持つ存在だということです。 

 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたちの日常を描いたノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ」(渡辺一史著)のように生身の人が持つ"リアル"を受け入れないと事実の狭間に潜む真実に近づけないことを意味しするのです。 

 

中山七転八倒|ピクシブ文芸