「不純 句集」山田耕司 著(左右社)
四国松山に住んだことがあります。松山は街中に俳句が溢れています。
大街道や銀天街では四季折々にイベントが開催され、
テレビでは四国だけ放送される俳句番組がありました。
・・・松山高校を卒業後、伊予鉄に就職して退職した後は道後温泉に通って俳句ざんまいの老後を送る・・・
これが、松山に生まれた人が抱く理想の人生だと聞かされたこともあります。
なんとも微笑ましく脱力したことを思い出しました。
誰もが俳句を詠み、自由闊達に乾燥を述べ合うところに都会にはない風土があります。
俳句には結社という流派のようなものがあり、
流派によっては奇天烈な句も評価されます。
17文字の中に込められた小宇宙の広がりは、松山に暮らす人々の心の大きさを表しているかのようです。
〆切本などで知られる左右社の最新刊。
一筋縄では行きません。覚悟してお買い求めください。
かつて、小林恭二『実用 青春俳句講座』(ちくま文庫)に最年少で参加した天才青年・山田耕司の第二句集! 一度は俳句から離れていた山田だが、2011年『超新撰21』(邑書林)でふたたび注目され、昨年刊行されたアンソロジー『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』(左右社)では、〈かわいい〉若手俳人の読み解き実況を担当した。今一番脂の乗った俳句作家の一人である。
『不純』から、今日の気分で十句挙げてみよう。
ロー石の線路の果てのおはぎもち
面影に天ぷらそばを持たせけり
輪投げの輪かぶりて春を惜しむなり
眼の球はぬれつつ裸ふきのたう
脱がせあふ服は迷彩ほととぎす
みつ豆の叱る側だけ泣きながら
まほろばや手なりに馴らす灰に沖
焚き火より手が出てをりぬ火に戻す
絵日傘の遺品となるは今日ならず
菜の花や地下に便座のあたたまり
滲み出すユーモアが、練れた文体のなかで踊る。BLあり怪談あり、とにかく読み物として面白い。山田の代表作といえば〈少年兵追ひつめられてパンツ脱ぐ〉だが、それに勝るインパクトの作品が満載だ。構成は佐藤文香が担当し、デザインは松田行正氏、表紙は山口晃氏にお願いした。(佐藤文香)