「GONZALES IN NEW YORK」丸山ゴンザレス 著(イースト・プレス)
世界の危険地帯を映像取材するために、放送局は徹底した安全確保を行います。
「本当に危険な場所には近づかない」のです。
そこそこ危険な場所を取材する場合は、テレビカメラの後ろに相当強固な支援体制があると思ってください。それは登山家の単独登山を陰で支えるスタッフの存在のようなものだったり、事前に関係者に対して行う根回しだったりします。
取材中のクルーが事故に巻き込まれた。というニュースが流れたりしたら大変だということを、組織は過剰なまでに神経を尖らせているのです。
著者は放送局が尻込みする「本当に危険な場所」に単身飛び込むフリージャーナリストです。
前作「クレイジージャーニー」ではテレビ取材の依頼を受けて、社会秩序が崩壊したルーマニアや、麻薬が蔓延するコロンビア、世界一危険な船の解体現場から先進国ではアメリカ・ラスベガスの下水道で暮らす住人などを訪問しました。
著者の姿勢が興味本位に終わらないのは、危険な現場で生計を立てる人間にしっかり関係性を築くという姿勢です。取材対象の視点から見える世界のありようをしっかり伝えてくれるところに、ともすれば「知ってるつもり」になりがちな私たちの姿勢を正してくれる力を感じます。
本書は世界経済の中心ニューヨークが舞台。
ニューヨークは危ない街だということは、誰もがうすうす感じている実態を、当事者の目で辿ります。映像で見るより活字で読んだ方がリアルに伝わってくる著者の好奇心からは有能な外科医のような切れ味を感じます。