「その姿の消し方」堀江敏幸 著(新潮社)
堀江敏幸*1の作品は、フランスでの生活が長かった方に人気があります。学生時代パリ郊外で暮らした著者は、自分の足で歩き、自分の目で見た体験を作品に散りばめています丁寧に描写された空気や臨場感に共感するからかもしれません。
引き揚げられた木箱の夢想は
千尋の底海の底蒼と闇の交わる蔀。…留学生時代、手に入れた古い絵はがき。消印は1938年、差出人の名は
アンドレ・L。古ぼけた建物と四輪馬車を写す奇妙な写真の裏には、矩形に置かれた流麗な詩が書かれていた。いくつもの想像を掻き立てられ、私は再び彼地を訪れるが…。記憶と偶然が描き出す「詩人」の肖像。
野間文芸賞受賞作。
堀江 敏幸 新潮社 2018-07-28
日々を淡々に描く描写は一見平凡な作品のように見過ごしがちですが、平凡な日々がゆっくりと変わって行くことに気がついたとき、大きな感動に襲われることがあります。それは読み手の心の変化を促し、生きることの意味を問いかける著者の思いに、心地の良さを感じるからかも知れません。