「写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-」安田菜津紀 著(日本写真企画)
言葉は時に、人の心を追い詰め、切り刻むほどの威力を持ちえてしまう
よその国の大統領は、自分の敵か味方かをはっきりと分けて喋ります。
「あいつは敵だ」「俺は正しいことを言っている」
何を言っているのかがわかりやすい。
瞬間に理解できる言葉は、かなりの人に自分と同じ意見を持っている人だと錯覚を起こさせます。
でも大統領は本当の現場に立って物事を見つめてはいません。
なぜなら、現場には敵も味方も入り交じり、善も悪も一筋縄では判断ができない混沌の中にあるからです。
弱い立場にいる人を置き去りにしないために
事実とは一体何か、その答えにたどり着こうとジャーナリストたちは現場に向かい、事実の破片を一つ一つ拾い集めます。
著者の安田菜津紀さんも現場に魅せられた人の一人です。彼女はペンの代わりに写真という道具を使って混沌の正体を写し取っていきます。
言葉は時に、人の心を追い詰め、切り刻むほどの威力を持ちえてしまう。けれどもまた、たった一つの言葉で、越えられる夜がある。何気ない言葉で、「生きたい、生きたい」と心が呼吸しはじめる。
日々接する言葉の数はおびただしい。まるで巨大なホースから噴き出す水を、直に飲もうとしているようだ、と飛び交い続ける情報を前に思う。だからこそ一度立ち止まり、深呼吸し、心を柔らかくできるような言葉にゆっくりと手を伸べる。そんな温かな場所をこれからもそっと、守りたいと思う。
言葉に踊らされる前に、自分の目で見て考えよう。そんな気持ちにさせてくれる本です。