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#各務葉月「食品工場の中の人たち」

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「食品工場の中の人たち」各務葉月 著(KADOKAWA

近頃注目の同人コミック。

閉じた世界、好事家向けの印象を長らく引きずってきたこの世界も変革の動きが起きています。自主制作漫画の発表するメディアを同人誌と言います。その同人誌を持ち寄って売り買いするのがコミックマーケット。略称コミケというイベントです。このイベントの中心をになってきたのは二次制作いわゆる原作コピーコンテンツや幼女趣味オタク系の色彩が強いコンテンツです。最近はオリジナルの作品を主に扱うイベントも人気を集めています。それが同人イベント「コミティア」です。劇場版アニメが話題になった漫画家こうの史代さんもコミティア出身。気骨のある作家が生まれる登竜門として存在感を高めています。

本作「食品工場の人たち」もコミティアで話題をさらいました。

読み手の感動や共感を生み出すのは作品の中に描かれるリアルな人の生き方や作者の観察眼です。事実の克明な描写は見る人の心をゆさぶります。神は細部に宿ると言われるのはそのためです。

差別や偏見、人権問題を抱えるがゆえに実写では描きにくい素材があります。社会の中で見過ごされがちな現場です。

不可視の社会。見て見ぬ振りをせさせるを得ない仕事の現場は、私たちの生活を最も裏で支えています。

作者はその現場の体験を元に現場を再構成。見て見ぬ振りをせざるを得ない私たちにある種の覚悟を迫ります。

楽しく読みながら心にくさびを打ち込まれるような感触を味わうことが格差社会を生きていく力に変わるのです。