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#村上隆「芸術起業論」

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「芸術起業論」村上隆 著(幻冬舎

拝金主義と読み間違えそうな表題です。さらに著者の創作活動を看過すると精神主義こそが正しい道だと思えてきますが、その根底をゆさぶる提言には説得力があります。

日本の美術界をディスっているようで、実は愛情あふれる究極の応援本。ネット上に展開する書評を読むだけでも、表現を志す人を刺激する内容で満ちています。

芸術は想像力をふくらませる「商売」であると言い切る著者は、商売を成立させるためのあらゆる努力を惜しまないから嫌みでない。「心の本音を探索し、心の扉を開け放つそういうリスクの高い行為をしているのが芸術家。」「僕の欲望は「生きていることが実感できない」をなんとかしたい、なのです。」が熱くていい。世界のルールとは「世界で唯一の自分を発見し、その核心を歴史と相対化させつつ、発表すること」。自分もプレゼン力を身に付けていきたい。

 

アートは、文化的、歴史的な側面が注目されがちだが、決して社会的な要素を排除してはならない。ゴールと手段を分けて考える日本のアート・カルチャーに一石を投じる書。ただし、現在のベーシックインカム的な発想ができると、西洋芸術史でいうパトロンの存在がだれしも持て始める。とするならば、この芸術起業の文脈も変わり、さらには美術業界そのものの仕組みの変わりそうである。 

 

美術の世界の価値は、「その作品から、歴史が展開するか」で決まります。日本の頼るべき資産は技術で、欧米の頼るべき資産はアイデアなのです。ビル・ゲイツは、ダ・ビンチの作品を持っています。栄耀栄華を極めた経営者には、ほとんどの問題はお金で解決できるものなのでしょう。人の感情も分かったような気になる・・・そんな時にこそ人間は芸術が気になるようです。なぜならば「心」こそ、そして「心」の内実こそ、蜃気楼のように手に入れたと思った途端逃げてゆくものだ、ということを彼らは知っているからです。等々。若者必読の書。