本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

「ひとり暮らしの小学生 江の島の夏」が登場

最近寄せられるご要望の中で目立つのがコミック関連の問い合わせです。原作がコミックというドラマや映画が増えているからなのでしょう。書店側でも情報に耳をそばだてなくてはなりません。一般書店ではコーナーや担当書店員を別にして応対しているようですが、この書店では規模も小さく、読者層も特殊なことから一般書と同じように扱わざるを得ません。

少し広げたコミックの棚に新登場したのがこの本です。

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「ひとり暮らしの小学生 江の島の夏」松下幸市朗 著(宝島社)です。
帯に『このマンガがすごい!』編集部がおくる最強WEBコミック!とあります。「このマンガがすごい」はその年話題になったマンガがランキングされる書籍で、毎年放送局員の関心を集めています。したがってその編集部が推薦する本は期待できる本に違いありません。 

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時は1980年代。神奈川県の江の島では、9歳の女の子がひとりで食堂を営みながら懸命に生活していたのでした……。貧乏だけど明るくてかわいい主人公・リンちゃん。ほがらかに生活する姿に、ほろりと泣けて、ほっこりと笑えるほのぼのストーリー。

累計300万PV & AmazonKindleストアランキング4コマ部門」で16カ月連続1位継続中の大人気フルカラーコミックがついに書籍化! ということから、初出は紙の媒体ではなく、インターネットで話題となった作品の書籍化であることが分かります。「電車男」みたいだ。 

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設定は今から20年ほど前の江ノ島です。両親のいない小学4年生の女の子鈴音リンちゃんが、食堂を切り盛りするお話。(ちなみに小学生が自活するストーリーは現行法上ありえない設定ですが、 ここはファンタジーということで読み進めます)

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原典はニコニコ動画で公開中なのでそちらも覗いてみると、「いい笑顔やw」とか「これも言わないでおこうかww」「泣けるぜ」「生活するにも食事以外にも光熱費もかかるしこれ1ヶ月もすれば破産すんじゃね?」「スマン…切な過ぎて1話で俺はリタイアだ」と、コメントが飛び交っているのがわかります。

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同梱されているのは「一人暮らしの中学生」こちらも洗うがごとき赤貧のなか健気にがんばる女子中学生が主人公です。 

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連載漫画なら、各話の終わりに次回につなげるシーンを入れたり、単行本なら入れ物の大きさに足りる原稿の量など、初出が紙媒体なら紙の制約に作家は縛られます。webが初出であれば紙では制約になっていたものが取り払われるので、作家は自主性を取り戻すことができます。(反対に首を絞めることにもなりかねませんが・・・)権利展開も含めて作家の地位が大きく変わって行くであろうと本を読みながら思いました。

著者の松下幸市朗*1 氏は京都造形大学の専任講師です。デジタルを熟知したクリエイターの登場は大歓迎です。

松下 幸市朗 WORK REPORT

ウェブで人気を集めた作品であっても、わざわざ旧来メディアである紙の本にする。作品を読んで楽しむ読者層と、持って触って楽しむ読者層が混在していることに書籍の未来を感じることができます。

ひとり暮らしの小学生 [ 松下幸市朗 ]
価格:756円(税込、送料無料)


 


 

*1:1977年北海道生まれ。アシスタントとしてマンガ業界に入り、数年を経て講談社の月刊少年誌にて約1年半の連載を経験。その後、2014年 専門学校千葉デザイナー学院 非常勤講師就任。電子書籍として「ひとり暮らしの小学生」一巻を出版。2015年 同作、二巻、三巻(完結)を出版。同年からC3(*1)のキャラクターデザイン・イラストを担当。現在は主に、電子書籍の研究・デジタルでのマンガ表現に力を入れており、「ひとり暮らしの小学生」は電子書籍としてAmazonキンドルiBooksGoogle Playブックス、楽天kobo、BOOK WALKERを通して世界中で出版されており、書籍化も準備中。次回作執筆中。(*1) C3はCross-Cutting Comparisonsの略称で、地球惑星科学の様々なデータを取り扱うウェブサービスです。