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青山七恵さんが選ぶ2016年の三冊

2016の三冊

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青山七恵*1さんが選んだ今年の三冊。

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1「ハリネズミの願い」トーン・テレヘン 著(新潮社)

ある日、自分のハリが大嫌いで、ほかのどうぶつたちとうまくつきあえないハリネズミが、誰かを家に招待しようと思いたつ。さっそく手紙を書きはじめるが、もしも○○が訪ねてきたら、と想像すると、とたんに不安に襲われて、手紙を送る勇気が出ない。クマがきたら?ヒキガエルがきたら?ゾウがきたら?フクロウがきたら?―さまざまなどうぶつたちのオソロシイ訪問が、孤独なハリネズミの頭のなかで繰り広げられる。笑いながら、身につまされながら、やがて祈りながら読んでいくと、とうとうさいごに…。オランダでもっとも敬愛される作家による、臆病で気むずかしいあなたのための物語。

ハリネズミの願い

ハリネズミの願い

 

 

2「煙が目にしみる」ケイトリン・ドーティ 著(国書刊行会

煙が目にしみる―火葬場が教えてくれたこと [著]ケイトリン・ドーティ [訳]池田真紀子

米国シカゴ大学で中世史を学んだ女性が、サンフランシスコの葬儀社に就職し「火葬技師」として働いた1年間の体験記だ。 土葬が基本の米国で、近年増加傾向にあるとはいえ火葬はマイノリティ。「なんでまた大学を出て。それも火葬場に」と同僚からも首を傾げられる。 「死」に強い関心をもった8歳の時の体験をはじめ、小説を読むようなタッチで日々の出来事が綴られる。一人きりの職場に慣れたある日、赤いワンピースで出勤するや「そこのあなた」と遺族から叱責される。火葬室に遺族が集うのが稀だったためだ。「遺灰の配送」も珍しくはなく、難癖をつけて料金を払うまいとする輩もいる。異文化の集積する多民族国家。逸話の一つ一つから、弔いの儀式や捉え方はこんなにも異なるものかと驚かされる。

煙が目にしみる : 火葬場が教えてくれたこと

煙が目にしみる : 火葬場が教えてくれたこと

 

元火葬技師の著者が綴つづる現代の葬儀事情とその舞台裏。「あなたと、いつかかならず訪れる死との関係は、あなただけのものだ」。この言葉が忘れがたい。

3「セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人びと」スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 著(岩波書店

「思想もことばもすべてが他人のおさがり、なにか昨日のもの、だれかのお古のよう」

1991年、ソ連が崩壊した。20世紀の壮大な実験ともいわれるこの国での日々は、人びとの心になにを残したのだろうか。共産主義下の暮らしを生きていた人間の声を書き残すべく、作家はソ連崩壊直後から20年以上にわたって数多くの聞き取りをおこなった。自殺者の家族、収容所の経験者、クレムリンの元幹部、民族紛争を逃れた難民、地下鉄テロの被害者、デモに参加して逮捕拘禁された学生。街頭や台所で交わされ響きあう幾多の声から、「使い古し(セカンドハンド)の時代」に生きる人びとの姿が浮かび上がる――。21世紀に頭をもたげる抑圧的な国家像をとらえたインタビュー集。著者のライフワーク「ユートピアの声」完結作。

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

 

 

*1: 小説家。埼玉県大里郡妻沼町出身。筑波大学図書館情報専門学群卒業。2007年、「ひとり日和」で第136回芥川龍之介賞受賞。