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本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

桜庭一樹さんが奨める、吉野朔美さんの5作品

作家・桜庭一樹さんが奨める吉野朔美さん。f:id:tanazashi:20170209160903j:plain

 

吉野朔実(よしの・さくみ)さん(1959~2016)は「少年は荒野をめざす」「ジュリエットの卵」などの代表作で知られる漫画家です。彼女の最後の作品「吉野朔実作品集 いつか緑の花束に」が出版され静かな反響を呼んでいます。 

吉野朔実作品集 いつか緑の花束に (Flowersコミックス)
 

 

吉野朔実は、凡(すべ)ての読者にそう思わせる、独特の存在感を持つ漫画家だった。と桜庭さんは偲んでいます。 

文学を愛する人で、吉野朔実を未読でこれから読むという人がいるなら、その人がとても羨(うらや)ましい。その体験を譲ってほしいと思うぐらい妬(ねた)ましい。
 自分も、できるならもう一度新作を読みたいからである。
 いまこの文を書きながら、あれを勧めたい、これも紹介したい……いや、でも永遠に沈黙していたい……というアンビバレントの中にわたしはいる。

book.asahi.com

 

青年期のアイデンティティ・クライシスをテーマとして描いた作品が多く、作品には主人公の鏡像たる存在が登場します。桜庭さんは「書き手にとり憑(つ)く“夢魔”と向きあい、愛して、戦い続けた人でもあった」と語りいくつかの作品を紹介しています。 

「少年は荒野をめざす」(集英社

【あの少年は私 今もあの青い日向で世界の果てを見ている】浅葱中・名物トリオの一人、狩野都。小説を書き、いつも不思議な雰囲気を漂わせる狩野は周囲から浮いてはいるものの、管埜と小林と3人で学校生活を楽しんでいた。しかし時は受験シーズン。否応なしに現実を突きつけられる日々の中、狩野は黄味島陸と出会う。彼は狩野の心に棲み続ける少年にそっくりだった…。揺れ動く青春と影、第1巻。

この作品の特色の一つは“文学の香り”だ。全篇(ぜんぺん)で激しく匂いたち、読むとトリップするほど酔わされた。 

吉野朔実劇場 悪魔が本とやってくる」(本の雑誌社

本との付き合い方をすくいあげ、装丁、造本から献辞など本にまつわるあれこれをエッセイ風漫画に大人気シリーズ第7弾!

悪魔が本とやってくる (吉野朔実劇場)
 

吉野風とでもいうべきこの独特な作風の謎が解けたと思ったのは、後に読書エッセイを読んだときだ。映画への造詣(ぞうけい)もおどろくほど深かった。観(み)て、観て、楽しみ、他者と語りあい、思考し続けた。肥沃(ひよく)で異様な密度の秘密はここにもあったのだろう。 

吉野朔実劇場 吉野朔実は本が大好き」(本の雑誌社

長年「本の雑誌」に連載していた読書エッセイマンガ〔吉野朔実劇場〕をすべて1冊にまとめた作品集。

単行本で出版された『お父さんは時代小説が大好き』『お母さんは「赤毛のアン」が大好き』『弟の家には本棚がない』『本を読む兄、読まぬ兄』『犬は電信柱が大好き』『神様は本を読まない』『悪魔が本とやってくる』『天使は本棚に住んでいる』(2016年7月刊)をALL IN ONEに。またボーナストラックとして単行本未収録作品6作と「本の雑誌」に掲載した「図書カード3万円使い放題」、2009年5月号からスタートした近況欄「今月書いた人」も収録。

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

 

 

「こんな映画が、 吉野朔実のシネマガイド」(PARCO出版

  映画をこよなく愛する漫画家・吉野朔実が「an・an」や「PECマガジン」などで連載した映画エッセイとイラストが1冊に。『フィフス・エレメント』などハリウッドの大作に、今では世界的な巨匠の1人に数えられる北野武の作品、『カフェ・ブダペスト』や『シャンドライの恋』など美しいヨーロッパ映画から鈴木清順増村保造という先鋭的かつディープな日本映画、果てはイランや中国、中南米の映画まで、さまざまな作品が取り上げられる。ホラー、サスペンス、アクション、恋愛、戦争モノに犯罪モノ、特撮モノと、ジャンルを問わず105本の作品を、映画に対する愛情あふれる視点で紹介する。

こんな映画が、―吉野朔実のシネマガイド

こんな映画が、―吉野朔実のシネマガイド

 

「映画に貴賎はない」と言いきる著者の言葉は、魅力あふれる映画の世界に私たちを導いてくれるだろう。(深澤晴彦)

「恋愛的瞬間」(小学館

「すべての幸福は恋愛的瞬間から始まる」という、心理学博士・森依四月。彼の恋愛クリニックを訪れる患者は、皆風変わりで…。

 これは個人的には、30代半ばになって読み返したとき改めて猛烈に面白かったのだ。

「記憶の技法」(小学館

華蓮(かれん)は、偶然見た自分の戸籍抄本に不可思議な記載をみつけた。亡き年下の姉の存在。記録から消された実父母の氏名。自らの過去に疑問を抱いた華蓮は、隠された真実と封印された記憶を取り戻すため、旅にでる——。

記憶の技法 (小学館文庫 (よE-19))

記憶の技法 (小学館文庫 (よE-19))

 

一方『記憶の技法』は、幼いころの記憶にポッカリ空いた異様な“穴”に気づいた少女が、家族の過去を探す心理ミステリー。読書歴の影響で作品のジャンルが多岐に渡(わた)っていくことの臨場感をも味わえた。 

読んでない人はうらやましいと言われる作家さんはそう多くはないように思います。