本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

本を読むひと

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「本を読むひと」アリス・フェルネ 著(新潮社)

ジプシーの大家族とある図書館員の物語。ゴンクール賞候補作のロングセラー! パリ郊外の荒れ地に暮らすジプシーの大家族。家長のアンジェリーヌばあさん、息子五人、嫁四人、孫八人のこの一家を、ある図書館員が訪ねてくる。本を読む歓びを伝えたい一心で毎週通ってくる彼女は、まず子どもたちを、やがてその父母を、最後には家長をも変えてゆく。フェミナ賞最終候補となったフランスのロングセラー!

・フランス人女性の読み聞かせが、ジプシー一家を大きく変えていった

一家と図書館員の間に育まれる思い。彼らは何を受け取り、何をあたえ、何を無くしたのか

・全ての人に物語が必要だという信念

大統領選の行方に目が離せないフランス。書店でもフランスの今を伝える出版物に動きが出ています。国際方面の仕事を担当している読書家が薦めてくれた本がこの本。「本を読む人」です。原題は「Grâce et dénuement 」。 直訳すると「恩寵と貧困」という意味が、どうして「本を読む」ことになったかというと、パリ郊外に住み着いたジプシー(ロマの人々と表現すべきところですが、出版物にならいます)の大家族のもとに、闖入してきた一人の司書が紡ぎ出す物語なのだとか。「泥まみれの人間も等しく人間である」というテーマが心に響きます。「しょおせつをよみたい」・・の呟きに、不寛容と寛容が同居するかの国の暮らしを思います。

本を読むひと (Shinchosha CREST BOOKS)

本を読むひと (Shinchosha CREST BOOKS)

 

 

5月の「このマンガがすごい」ランキング・オンナ編

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1「アレンとドラン」麻生みこと 著(講談社

林田(リンダ)は田舎から大学進学に伴い上京して1年。単館映画などのサブカル好きにとっては、それなりに幸せな日々を送る。ところが、ある日、サブカル女子を食いモノにする物知り風おじさんに襲われそうに…。それを救ってくれたのは隣人・江戸川(エドガー)だった! 

 

2「黒き淀みのヘドロさん」模造クリスタル 著(KADOKAWA

新種の生命体・ヘドロから「白馬の騎士」として作られた人造人間ヘドロさん。誕生したばかりの彼女は善悪の基準があいまいだが、純粋な心の持ち主だった…。

 

3「逃げるは恥だが役に立つ海野つなみ 著(講談社

森山みくり(25歳)、彼氏なし。院卒だけど内定ゼロ、派遣社員になるも派遣切り、ただいま求職中。見かねた父親のはからいで、独身の会社員・津崎平匡(36歳)の家事代行として週1で働き始める。両者ともに快適な関係を築いたふたりだが、みくりが実家の事情から辞めることに。現状を維持したい彼らが出した結論は、就職としての結婚――契約結婚だった! ひとつ屋根の下、秘密と妄想(?)の生活が始まる……! オトナの諸問題に挑む海野つなみの新境地!

 

 

4「地獄のガールフレンド」鳥飼茜 著(祥伝社

一軒家でルームシェアを始めた3人の共通点は「友だちがいない」 女たちの食卓では非モテの根源、オバサン問題、受け身の性欲、“女の人生”比べ、……とおしゃべりが止まらない!! 世間におののく女たちに捧ぐ、デトックス同居物語!

地獄のガールフレンド(1) (FEEL COMICS swing)

地獄のガールフレンド(1) (FEEL COMICS swing)

 

 

5「女王の花」和泉かねよし 著(小学館

亜国(あこく)の姫でありながら冷遇されている亜姫(あき)。幼いながらも母の世話をしながら、明るく生きる亜姫はある日、金の髪と天の色の眼(め)を持つ奴隷の少年・薄星(はくせい)と出会う。境遇の違いを超えて、強い絆(きずな)で結ばれる二人だったが、その先に待っていたのは…!?

 

6「四十七大戦」一二三 著(泰文堂)

次の首都は、鳥取県

極東の島国・日本の最果ての地、魔境「鳥取」は人口の減少により崩壊の危機に直面する消滅可能性都市であった。
そんな辺境の地・鳥取が日本の次の首都になるという奇跡…、それは""首都争奪戦""によってなしえたのだ…。
47都道府県の神が次の「首都」を争う都道府県擬人化バトル、開幕! 

四十七大戦(1) (アース・スターコミックス)

四十七大戦(1) (アース・スターコミックス)

 

 

6「時計じかけの姉」いけだたかし 著(幻冬舎コミックス

とある寂れた商店街でひっそり働く天才時計技師の晶、そしてその町で男娼をしている高校生のミナト。二人の姉弟には他の誰にも言えない秘密があった。晶に恋する幼なじみで電器屋のツグジは、どうにかして二人を真っ当な道へ導こうと奔走するが─。エロスとタナトス渦巻く商店街スラップスティック、開幕!

 

8「カラスのいとし京都めし」魚田南 著(祥伝社

ところは京都、烏寺(からすでら)。昔喋るカラスがいたというこの寺に、これまたずいぶん長生きのカラスが一羽おりました。食に焦がれてこのカラス、とうとう人の世界まで降りてきてしまったのです。「はらへりあらたの京都めし」の著者、魚田南がおおくりする、新シリーズ第1巻! 京都めしに恋焦がれて、人間になった年齢不詳・京都在住のカラスが食べ歩く美味20軒! お品書きは全16話。うなぎのお茶漬け、親子丼、カレー、ナポリタン、サンドイッチに、さくら餅! まだあるお品は本編で。 カラスにハトに、ちょい枯れ坊主まで、イケメンたちが食べ尽くすリアル京都めしを、どうぞご一緒に召し上がれ。

カラスのいとし京都めし(1)【電子限定特典付】

カラスのいとし京都めし(1)【電子限定特典付】

 

 

8「親愛なるA嬢へのミステリー」モリエサトシ 著(講談社

本好きで、気がつけばいつも物語の世界に浸っている少女・綾乃と、わけあって断筆中の小説家探偵・能見啓千。ひょんなことから啓千の身の回りの世話をすることになった綾乃だが、やがて二人に次々と数奇な事件が降りかかり――!? 「もしかして すべての事件はその探偵のせいで起こっているのかもしれないよ」

 

 

10「さくちゃんとのぞみくん」KUJIRA 著(KADOKAWA

男の子のようにふるまう少女・朔。
そんな彼女が初めて恋をしたのは、女の子のような長い髪をした少年・希だった。

「初潮」「声変わり」「初めてのブラジャー」、そして「初恋」――。

心も体もまだ不安定な、小学生から中学生の間の四年間を描いた、
甘酸っぱい思春期ストーリー第一巻。 

 

 

5月の「このマンガがすごい」ランキング・オトコ編

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1「バイオレンスアクション」浅井蓮次 画、沢田新 作(小学館

暴力団抗争の行き違いから、組に家族を殺された拷問専門の[医者]。[医者]は復讐を誓い、組潰しを「殺し屋派遣業」に依頼する。派遣されたのは[簿記専門学校生]の[女子]。彼女こそ指名NO.1の凄腕ヒットガール。名前は――[ケイ]。

バイオレンスアクション(1) (ビッグコミックススペシャル)

バイオレンスアクション(1) (ビッグコミックススペシャル)

 

 

2「ヒストリエ岩明均 著(講談社

エウメネスは、アテネ近郊・ピレウスで懐かしいカロンとの再会を果たした後、進軍してきたマケドニア軍と合流する。マケドニア軍は、強国テーベからの援軍を得たアテネ軍と対峙。場所はギリシア中央部カイロネイア。ギリシアの覇権をめぐり、史上名高い「カイロネイアの戦い」が始まる!

 

3「不滅のあなたへ」大今良時 著(講談社

彼に“フシ”と名前をつけたのは、オニグマ様への捧げ物に選ばれたニナンナの少女マーチ。少女たちと共にヤノメに囚われたフシはママになることを夢見るマーチの側で刺激を受けながら成長していく。そんな中、マーチを助けるために少女パロナはヤノメからの脱出計画を練っていた。希望を抱く少女たちからフシは一体何を獲得するのか。これは自分の未来を選択する物語。

 

 

4「ウムヴェルト 五十嵐大介作品集」五十嵐大介 著(講談社

『ディザインズ』『リトル・フォレスト』『海獣の子供』などで絶対的な支持を獲得している五十嵐大介の作品集、待望の登場! 2004年から2014年にかけて描かれた短編は、「この世界のどこかにいる、かもしれない」──そんな「未確認生物」をモチーフとした珠玉の10タイトル。『ディザインズ』の原型となる読み切り『ウムヴェルト』も網羅し、五十嵐大介の環世界が惜しみなく放たれた1冊!

 

 

5「実は私は」増田英二 著(秋田書店

考えていることが顔に出てしまう体質の男子高校生・黒峰朝陽は、ミステリアスでクールな美人のクラスメイト・白神葉子に恋をする。しかしある日、朝陽は葉子の正体が、じつは吸血鬼であることを知ってしまい、その秘密を守るため彼女と友だちになるのだが、朝陽の毎日はその日から一転し……!?

実は私は 22 (少年チャンピオン・コミックス)
 

 

6「CITY」あらゐけいいち 著(講談社

『日常』から『CITY』へ。南雲が走ればCITYは回る、皆が繋がる。あらゐけいいちワールド全開のガールズ・ラン・コメディ第2巻!

CITY(2) (モーニング KC)

CITY(2) (モーニング KC)

 

 

7「クズの本懐横槍メンゴ 著(スクウェア・エニックス

歪(いびつ)な恋の先に見つけた、私たちの――「本懐」。花火(はなび)、麦(むぎ)、茜(あかね)、鳴海(なるみ)、早苗(さなえ)、モカ。絡まりあった赤い糸は、切れて解(ほど)けて結ばれて、それぞれに新たな糸を紡ぎだす。不器用すぎた彼らが、歪な恋の先に見つけた「本懐」とは――。誰よりも純粋で誰よりも歪んだ純愛ストーリー、ついに完結。

 

 

7「ディザインズ」五十嵐大介 著(講談社

自然界を超越した異形の生物──HA(ヒューマナイズド・アニマル)。それは遺伝子を”設計”された、ヒトと動物とのハイブリッド。HAが備える驚異的な身体能力は、野心を抱く人々の策略によって殺りくの現場へと投入され、その真価を発揮していく。ヒトは何のためにこの異形をデザインしたのか──その背景には、人類の未来へとつながる壮大な計画が横たわっていた! 様々な陰謀さえもからみあう衝撃の第2巻、登場!

ディザインズ(2) (アフタヌーンKC)

ディザインズ(2) (アフタヌーンKC)

 

 

 

9「BLUE GIANT SUPREME」石塚真一 著(小学館

止まるわけにはいかない宮本大は、
単身ヨーロッパに渡る。
降り立ったのはドイツ・ミュンヘン
伝手も知人もなく、ドイツ語も知らず、
テナーサックスと強い志があるだけだ。
「世界一のジャズプレーヤーになる・・・!!」
練習できる場を探すところから始まる挑戦。
大の音は、欧州でも響くのか―――

 

 

10「ファイアパンチ藤本タツキ 著(集英社

ベヘムドルグから逃走する民たちを率いる通称“お頭”は、追手の兵に応戦するが劣勢に。しかし突如現れた謎の槍使いの女と仮面の男が加勢し戦況は一変する。一方アグニは、彼を崇拝する者たちのため再びある行為を余儀なくされ!?

 

 

欲望の資本主義

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「欲望の資本主義」丸山俊一 著(東洋経済新報社

大反響のNHK経済教養ドキュメント『欲望の資本主義』、待望の書籍化!未放送インタビューも多数収録した拡大版。

放送時間の制約があるテレビ番組では、関係者のインタビューは構成部分の論拠を補強するための抑えとして使われます。印象的な数秒の発言を導くために使われた残りのインタビューは編集段階でカットされます。それではあまりにももったいないと、未放送の素材を丹念に洗い直し、再構成して出版化することも増えてきました。これをメディアミックスといいますが、平たく言うと素材の使い回しです。

インタビューを活字に起こすと情報量はさほど多くありません。しかし、テレビ番組ではインタビューをしっかり録ることは番組の成否に関わる意味を持ちます。それは肉声の持つリアリティです。発言者の思いが肉声の強弱となって聞き手の心を揺さぶるからです。

経済学者の安田洋祐と世界経済のトップランナーたちとの対談でNHKで放送されたものが元になっている。ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ、24歳でチェコ大統領の経済アドバイザーになったセドラチェック、ベンチャー投資家のフォードの3人が本書の主人公である。

欲望の資本主義

欲望の資本主義

 

 

シブヤまなぶではない。渋谷学

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「渋谷学」國學院大學研究開発推進センター渋谷学研究会 編(弘文堂)

年代によって異なる青春の思い出の名所、ダンジョン化した渋谷駅、都市の顔に隠れた意外な一面など、誰かに話したくなる、とっておきの渋谷を豊富な写真で紹介します。渋谷の変遷を見れば日本文化の歴史がわかり、日本の未来が見えてきます。

 渋谷区は、23区の中で江戸川区と並んで“郷土資料館”を持たない区なのだそうです。歴史という文化の根を持たず、情報は発信するだけ。渋カジだとかコギャル文化とか、華麗でどこかフェイクな花々が咲き誇るところに渋谷区の特異性が感じられます。

複雑なダンジョンにも例えられる渋谷駅。その駅にも似て渋谷は多様な価値観が入り交じった街です。2002年、地元の國學院大學で開講したのが、渋谷を科学的に論じていこうという「渋谷学」です。アプローチの仕方は様々で、不思議な街の全貌を明らかにしようという発想が新鮮です。

渋谷を“科学”するオトナたち 「渋谷学」って何だ? - シブヤ経済新聞

渋谷学

渋谷学

 

 

絶賛の評価集める 学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで

急な動きを見せている本。

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学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで岡田麿里 著(文藝春秋) 

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話題を呼んだアニメ「あの日みた花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」。実は、そのアニメの脚本を書いた岡田麿里自身が小学校で学校に行けなくなっていたのです。これは、母親と二人きりの長い長い時間をすごしそして「お話」に出会い、やがて秩父から「外の世界」に出て行った岡田の初めての自伝。

アニメ本といっても取り扱う書籍は、グラフィック関係や作家論、シナリオ術といった制作者側から見たアニメ関連書籍の品揃えに気を遣う書店です。これは当たるだろうと、少し多めに入荷したのが脚本家・岡田麿里さんの自伝です。今朝のおはよう日本で企画が組まれたこともあり、かなりの勢いで動き始めました。

特徴的だったのは、報道番組や文化・福祉の担当者からも引き合いがあったことです。これは社会問題として著者の自伝が評価されていることを示します。著者の代表作2点は絶望的な思春期に遭遇した人の物語です。自分を見失い、生きづらさに悩む人々は、人間を描くことを生業とする放送局員にとって描き方だけでなく接し方も含め、丁寧に扱わざるを得ない取材対象です。

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語ることで救われる

放送では、学校に行けなくなった頃の体験が本人口から語られていました。(人に心を開く意味での)声を失い、母親との関係に悩みという体験は創作ではなく経験であるところに、事実の重みを再確認させられます。高校時代と思われる著者の写真を見ると、彼女が被った体験が伝わってくるような気がしました。経験を作品にすること、つまり自らをさらけ出すことで彼女自身が救われたわけです。

2作品が観客の心を打ったのは、商品としての脚本を作り出すという目的の奥底に、救いという自分自身のテーマがあったからなのでしょう。本書の目次を見ると、その体験を伝えることで同じ悩みに直面する人を救いたいという思いが伝わってくるような気がします。

アニメ担当者の話では「終了したばかりのアニメシリーズの脚本が炎上していて気の毒だ」という状態だそうです。暗い井戸の中に降りていって水を汲んで戻ってこれる希有な脚本家だけに気になります。本書も炎上の素材に上げられていると聞きましたが、制作者の間では高い評価を集める本になりそうです。

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週刊文春書評ほか

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男であれず、女になれない

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「男であれず、女になれない」鈴木信平 著(小学館

第23回小学館ノンフィクション大賞に、まさかの「自分自身を取材したノンフィクション」が送られてきました。選考会では、「これはノンフィクションといえるのか」「第三者への取材を行なうべきではないか」など、さまざまな意見がでましたが、選考委員の感想に共通したのはただひとつ。「それでも、この作品は面白い」

 自分自身を取材したノンフィクションとは”私小説”ではないのか?と思っていたら「私小説として発表されるべき。しかし、“自分を題材としたノンフィクション”という目新しさが面白い」と社会学者・古市憲寿さんも同じ疑問を抱いていたようです。ジャンル分けの整合性と作品の面白さとどちらを選ぶか問われたら、作品の面白さが優先されるべきだと思いますが、国境を破壊するような動きが話題になるところに今日性があるような気がします。装丁デザインはクラフト・エヴィング商會

男であれず、女になれない

男であれず、女になれない

 

 履歴|「男であれず、女になれない」 ~それでも、ハッピー量産体制~