本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

パリコレで数学を

f:id:tanazashi:20170921182801p:plain

 

「パリコレで数学を」阿原一志 著(日本評論社

ファッションブランドが「ポアンカレ予想」に挑む。幾何化予想の提唱者ウィリアム・サーストンより贈られた「8つの宇宙の絵」の謎に迫る!

著者の阿原一志さんは明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科で教鞭をとる大学教授です。この本を上梓することになったいきさつはブログにまとめられています。イッセイ・ミヤケの2010秋冬パリコレのこと その6|阿原 一志のブログ

 

宇宙は球体か?という問題は100年前ポアンカレ*1 により解答が予想されました。以来多くの数学者が証明を試みましたが解は出ませんでした。

アメリカの数学者サーストン(1946~2002)は3次元宇宙がとりうる形はいくつあるかを予想し、宇宙は8つの形状もしくはその組み合わせで成り立つという、サーストンの幾何化予想を提起しました。これにより、およそ100年にわたり未解決だった3次元ポアンカレ予想が証明されることになったといいます。

未解決だった世紀の難問はNHKスペシャルの「ポアンカレ予想」で放送されました。

サーストンの描いた8つの宇宙の絵。

この番組に興味を示したのが、2010秋冬のパリコレを前にデザイナー・三宅一生さんの「イッセイ・ミヤケ」コレクションでした。

プロデュースしていた3代目のデザイナーの藤原大(ふじわら・だい)さんがレディースの企画の段階で見て、これをパリコレのテーマにできないか,と企画を立てたそうです。

その「数学コーチ」としてサポートを行ったのが著者の阿原一志さんでした。

数学から離れて久しいデザイナーさんたちであって,かつ「仕事として取り組むためにどうしても分からなければいけない」という状況にあります

「幾何とはなにか」「結び目(絡み目)とはなにか」「球面幾何,双曲幾何とは何か」という根本的な問題から始めて「どうしてこれらが宇宙の形なのか」「軌道体とはなにか」「幾何と結び目の関係は」という本質的な問題を語りながら,「服作りへのアドバイスとなるように」語っていった。

 この本の主旨は専門知識をかみ砕いて説明していくことの難しさと楽しさが詰まっています。

*1:1854年フランス生まれの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。

戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー

f:id:tanazashi:20170926163403p:plain   「戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー」秋元千明 著(ウェッジ)

アメリカやロシア、中国は地政学をどのように利用しているのか?日本の地政戦略とは?そして、沖縄の位置づけとは?覇権ゲームの時代を地政学で読み解く。地政学的な視点を持てば、日本の進むべき道が見えてくる―。

安全保障の専門家が平易に語り尽くした1冊です。ひと昔前は北方領土をめぐるロシアの動向。数年前は中国の海洋進出とトランプ政権とアメリカの動き。最近は北朝鮮問題と日本を取り巻く情勢はめまぐるしく変わっています。

わたしたちの日常生活とは縁遠い外交・政治の話題であるため、話がこじれると炎上しがちなテーマです。たとえて言うなら「縄張り争い」です。地理的な制約から逃れることが出来ない以上あいてとうまく付き合うことが大切な点は私たちのご近所づきあいと似ているところがあります。

近所付き合いのように一筋縄ではいかないのが国と国の関係。天気や気温など自然環境や山や川、海などの地理的要素。住んでいる人の人種や宗教に加え、資源や歴史など時間や空間をあわせて読み解かなくてはなりません。

政治経済や外交などの動きを長い目で見る上で欠かせない教養ともいえるのが地政学です。

週間ベスト10 2017.09.26

ランキングです。

f:id:tanazashi:20160214112053j:plain

東京堂書店神田神保町店2017/9/26調べの週間ベストセラーです。

 

 

 

1「湖底の城 呉越春秋 8巻」宮城谷昌光 著(講談社

越は呉を奇襲するべく密かに大量の造船を行い、林野に運ばせていた。これをとある者から聞いた伍子胥は策を練る。その頃、何かがおかしいと感じていた范蠡は句践に伝えるも、句践は秘策を実行する。だが、すでに作戦を把握していた呉の攻撃により越軍は敗退。ついに伍子胥が率いる兵たちに句践は追い詰められるが、何とかかわし会稽山へ逃げ込む。句践は降伏も亡命もありえず、ここで戦い抜くと、ともに山に籠もった兵を前に宣言するが、大夫種の必死の献策をうけ、呉との講和を進めることをやむなく了承、囚われの身となってしまう。范蠡らはいつか句践が解放されることを信じ、その時まで越国を守り抜くことを誓う。

2「アナログ」ビートたけし 著(新潮社)

「お互いに会いたいという気持ちがあれば、絶対に会えますよ」すべてがデジタル化する世界で悟とみゆきが交わした、たったひとつの不器用な約束。素性も連絡先も知らないまま、なぜか強烈に惹かれあう二人の、「アナログ」な関係が始まった。いまや成立しがたい男女のあり方を描き、“誰かを大切にする”とは何かを問いかける渾身の長編。

3「女性号 SINCE 1891」早稲田文学増刊 川上未映子/責任編集(早稲田文学会)

4「私たちの星で」梨木香歩師岡カリーマ・エルサムニー 著(岩波書店

ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話。世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。

5「福島第一原発1号機冷却「失敗の本質」講談社現代新書 2443NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/著

東京電力技術者や原発専門家ら1000人以上を取材して浮かび上がってきたのが、原子炉冷却をめぐる「情報の共有」に失敗という事実だった。東京電力テレビ会議の内容を、AIで解析し、吉田所長の疲労度を解析したり、事故対応の意思決定に組織上の問題があったことなどを突き止める。 事故6年目経過しても、次々に浮かび上がる新事実。福島第一原発事故の調査報道の金字塔というべき作品 

 

6「売春島 「最後の桃源郷渡鹿野島ルポ」高木瑞穂*1 著(彩図社

“売春島"。
三重県志摩市東部の入り組んだ的矢湾に浮かぶ、人口わずか200人ほどの離島、周囲約7キロの小さな渡鹿野島を、人はそう呼ぶ。

4travel.jp


島内のあちこちに置屋が立ち並び、島民全ての生活が売春で成り立っているとされる、現代ニッポンの桃源郷だ。
この島にはまことしやかに囁かれるさまざまな噂がある。
「警察や取材者を遠ざけるため客は、みな監視されている」
「写真を取ることも許されない」
「島から泳いで逃げようとした売春婦がいる」
「内偵調査に訪れた警察官が、懐柔されて置屋のマスターになった」
「売春の実態を調べていた女性ライターが失踪した」
しかし、時代の流れに取り残されたこの島は現在疲弊し、凋落の一途を辿っている。
本書ではルポライターの著者が、島の歴史から売春産業の成り立ち、隆盛、そして衰退までを執念の取材によって解き明かしていく。
伝説の売春島はどのようにして生まれ、どのような歴史を歩んできたのか?
人身売買ブローカー、置屋経営者、売春婦、行政関係者などの当事者から伝説の真実が明かされる!

gendai.ismedia.jp

7「新しい分かり方」佐藤雅彦 著  (中央公論新社

バザールでござーる、だんご3兄弟、ピタゴラスイッチ、0655……。30年間、表現と教育の分野で、「伝える」方法を追究し続けてきた著者。そのマイルストーンとなる1冊。50数点の作品と解説エッセイで、「分かる」ことの喜び、楽しみを体感する本。「分かる」とは、人生が広がることだと実感できます。

8「済成長なき幸福国家論 : 下り坂ニッポンの生き方」平田オリザ、藻谷浩介 著(毎日新聞出版

里山資本主義」(藻谷)×「下り坂をそろそろと下りる」(平田)、初の対談!!若者に希望をつなぐためのユニークな国家論とは?

9「埴原一亟古本小説集」埴原一亟 著(夏葉社)

10「戦争育ちの放埓病」色川武大 著(幻戯書房

阿佐田哲也の名でも知られる私小説作家が折に触れて発表した珠玉の随筆86篇。全集にも未収録の初の書籍化。

*1:ルポライター。風俗専門誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に「サラリーマンより稼ぐ女子高生たち〜JKビジネスのすべて」(コアマガジン)、「風俗開業経営マニュアル〜極秘公開」

犬しぐさ犬ことば

f:id:tanazashi:20170807164501j:plain

 

「犬しぐさ犬ことば」雲がうまれる 著(ワニブックス

https://pbs.twimg.com/media/DGd0Rb3VoAA5EjB.jpg

糸井重里さん絶賛! ツイッターで人気沸騰中の、柴犬を擬人化した可愛くてあるある感溢れる作品が、待望の書籍化!2年間に投稿された1000点以上のイラスト+コピーから、犬好きの心をとらえてやまない約100作品を厳選して掲載。犬しぐさ・犬ことばに関する書き下ろしコラム「犬と諸科学」、特製シールも収録。

twitter.com

ツイッターで公開されていた柴犬の絵とコメントが可愛い本です。2015年に出版された本ですが、最近の犬猫ブームの中で注文される方がちらほらいて、ロングセラーとなっています。 

愛犬の友 2017年 07 月号

愛犬の友 2017年 07 月号

 

犬もかわいいけど、イラストで切り取った仕草もまたかわいい。柴犬は絵になるペットです。 

 

森のノート

f:id:tanazashi:20170910201608j:plain

 

「森のノート」酒井駒子 著(筑摩書房

日常の暮らしの片隅にそっとたたずむ、密やかな世界を愛する人、集合! 絵本作家・酒井駒子さんの静謐な作品と不思議なエッセイで織りなす初めての画文集。

書店員の中では密かな話題というか、気になる本として注目されています。フェイスブックで取り上げられているのをよく見かけます。絵と文章が”捨て置けない”力を持った作家さんの強さを密かに感じる本です。

 

 福井県の書店「じっぷじっぷ」

 奈良県 大和郡山市の書店「とほん」

 

 

 

10月の「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編

f:id:tanazashi:20170927154048g:plain

宝島社「このマンガがすごい!」編集部が運営するマンガ情報サイト『このマンガがすごい!WEB』。選者が選んだ10月のランキングが発表されました。

 

1「月曜日の友達」阿部共実 著(小学館

 まばゆい中学生ガールミーツボーイ物語!

みんなが少しずつ大人びてくる中学1年生。そんな中であどけなさが抜けない女子・水谷茜。水谷はひょんなことから「俺は超能力が使える!」と突拍子もないことを言う同級生の男子・月野透と校庭で会う約束をする。決まって月曜日の夜に。
大人と子供のはざまのひとときの輝きを描く、まばゆく、胸がしめつけられるガールミーツボーイ物語。

 

 

2「そしてボクは外道マンになる」平松伸二 著(集英社

ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』『マーダーライセンス牙』といった具合に、悪党どもを容赦なくぶち殺していくバイオレンスな作風で知られるベテラン漫画。漫画家の自伝的作品なのに、やたらと暴力描写が目立つ、フィクションと現実の狭間を漂う強烈な自伝マンガ。 

3「映画大好きポンポさん」杉谷庄吾人間プラモ】著(KADOKAWA

ポンポさんは敏腕映画プロデューサー。
映画の都ニャリウッドで日夜映画製作に明け暮れていた。ある日アシスタントの“映画の虫”ジーンはポンポさんから突然、 「この脚本は君に撮ってもらうから」と監督に指名され!?

pixiv上で瞬く間に50万ビューを突破した話題の作品。

 

 

4「ダンジョン飯九井諒子 著(KADOKAWA

ドラゴンに食われた妹を助けるために、迷宮に潜りモンスターを料理して喰う! そんなインパクトのある設定で注目を浴びたダンジョン飯だが、前作第4巻ではついにドラゴンを倒し、ファリンの救出に成功。しかし、物語はまだまだ終わらない。
最新第5巻では、迷宮を支配する狂乱の魔術師によって、助けたばかりのファリンが連れ去られてしまう。満身創痍で充分な物資もないライオスたちは一度地上に戻る方針を固めるが、潜るのがたいへんだったダンジョンからそう簡単に抜け出せるはずもなく……。

 

5「プレイボール2」コージィ城倉 著/ちばあきお(案)(集英社

作者のちばあきお氏の死去で連載は休止となった高校野球漫画『プレイボール』。
そんな未完の傑作である『プレイボール』の続編が38年振りに登場!

 

6「五佰年BOX」宮尾行巳 著(講談社

遠野叶多(かなた)は、幼なじみの真奈の家から奇妙な箱を見つける。箱の中には実際の人間が生活し、よく見るとそこは中世の日本らしき世界だった。好奇心で観察を続けるが、ある時、箱の中で少女が野盗に襲われているのを見てしまい、思わずその野盗を殺してしまう。動揺した叶多は真奈に相談するため彼女の家に向かう。だがそこで真奈の父親から思いもよらぬ事実を告げられる。「うちには真奈なんて娘はいないよ」と。

 

7「衛府の七忍」山口貴由 著(秋田書店

覇府の威によって戦国乱世を支配した治国平天下大君・家康。その意に従わぬ民は軍神吉備津彦命に誅戮される運命だ。だが見よ! 惨酷なる人界を跋扈する七つの影。人か獣か風か花片か、いや、衛府の刃・怨身忍者だ!

 

7「とんがり帽子のアトリエ」白浜鴎 著(講談社

小さな村の少女・ココは、昔から魔法使いにあこがれを抱いていた。だが、生まれた時から魔法を使えない人は魔法使いになれないし、魔法をかける瞬間を見てはならない……。そのため、魔法使いになる夢は諦めていた。だが、ある日、村を訪れた魔法使い・キーフリーが魔法を使うところを見てしまい……。これは少女に訪れた、絶望と希望の物語。

 

9「寿司 虚空編」小林銅蟲 著(三才ブックス

日常では縁がないような巨大な数字をひたすら扱っていく、異色の数学マンガ。我々が普通に生きていてはお目にかかれないだろう、「グラハム数」や「ふぃっしゅ数」などの巨大な数字の概念を、10ページぶっ続けで数列を描いて説明するという、これまた普通に生きていてはお目にかかれない手法で描いていく。

f:id:tanazashi:20170927163610p:plain


そのあまりの力技のせいで、「なぜ寿司屋の親方の娘は幽霊なのか」「なぜ突然プロレスが始まるのか」といったかなりシュールな部分ですら些細なことに思えてしまう、とんでもない異色作だ。

 

9「僕はまだ野球を知らない」西餅 著(講談社

今までにない野球マンガの登場です。野球の統計学セイバーメトリクス)を持ち込んで高校野球に革命を起こす男は、なんとド素人!

弱小高校を舞台にした、無謀な挑戦がここに開幕する!

 

 

ケーキツアー入門   おいしいケーキ食べ歩きのススメ

「好きこそ物の上手なれ」ということわざがまさに当てはまるのが

ブロガー発の出版物の人気ぶりです。

f:id:tanazashi:20170920155041j:plain

 

「ケーキツアー入門   おいしいケーキ食べ歩きのススメ」Nyao 著(青弓社

200万PVを誇る人気スイーツブロガー・Nyaoが、これまでに食べた3,000個のケーキへの愛を込めた誰もが楽しめる新しい食べ歩きスタイルを提案! ケーキツアーマップやケーキの基礎知識、首都圏のオススメケーキ店なども収めた、主観的で批評性があるガイド。

ツイッター発の本が相次いで出版される背景には出版社側の台所事情があるといわれます。本屋の世界はご存知のように再販制度で成り立っています。ここでは売れない本は三カ月程度で回収されます。出版社は自転車操業のような状態で本をだしつづけなくてはなりません。回収した本の穴を埋めるため次なる書き手を探して出版を続けないと版元は経営的になりたたないからです。

出版側の事情を感じる本の中で、この本が注目されたのはネット上の評価があることは間違いありません。誰しもが心の中で感じていたおいしいケーキを食べたいという要求を、著者が実際に行って食べて語ってくれたわけです。著者の味覚が自分の感性と少しばかり違っていたもそれはなんら問題ありません。自分の足を使い身銭を切った立場だからこそ持つ強い説得力が記事から漂ってきます。

味覚という主観と、店まで足で歩いて行ったという客観がほどよく混じり合った情報だからこそ、読者は新鮮な共感を覚えるのかも知れません。