本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

人生に向き合う一万円選書とは

昨夜は早めに帰宅してBSにチャンネルを合わせました。予てから話題となっていた北海道砂川市の書店が取り上げられると聞いたからです。

 

いわた書店の岩田徹さん(62才)はお客さんから寄せられたアンケートを見ながら、本を一万円分選び出して送る「一万円選書」という試みを続けています。そう聞くと「なんだ福袋みたいなサービスだな」と思われるかもしれませんが、私が興味を持ったのは詰め合わせ販売という方法ではなく、「その人が本当に必要としている本を届ける」という彼の考え方でした。

「お客さんの読書歴を伺っていたんです。その中で次第に、それぞれの人生を語って下さるお客さんが現れたんですね。例えば、小学校のときにいじめられていたとか、親が離婚したとかご自身の過去を語って下さるようになり、単なるアンケートではなく、人生相談のような形にもなっていきました」

岩田さんは空いた時間を使ってアンケートを読み、その人に合ったと思われる本を棚から選びます。文庫や新書も含め1万円選んだ本は10冊近くになります。ジャンルも内容も様々です。お客さんは配達された包みを開けてはじめて、岩田さんが注文者のために選んだ本がわかるのです。中にはアンケートに書いた内容とはつながりのないような本も含まれています。無関係に見える分だけ、連想や発見が広がる組み合わせになっているように思えます。

いや、これはすごいと直感しました。本屋の主が、自分の趣味で読みあさった本の記憶をたよりに、お客さんとコミュニケーションをとっているというのです。ふつうの書店員は忙しくってそんな手間のかかることはしませんよね。しかも他人の悩みの相談にまで応じるなんて、尋常ではない。

しかし、お客さんの方はそうは思っていなかった。今年だけでも日本全国からじつに666人もの人たちから問合せがあったといいます。(しかもその8割が女性)

出版不況とはいいますが、人々が本離れしたかというとそうではない。毎日大量に出版されるほんの洪水の中から何を選んだらいいかわからない。というのが読者側の悩みなのではないかと思いました。「すべてには目が届かないが、数を絞れば目が届く」というのは、読み手側にたてばごく当たり前に感じる感覚だったのです。

webのテキストではわからない、岩田さんの人となりをテレビで見て安心しました。本当に本が好きで、それにもまして本を読む人が好きな人物だったことが確認できたからです。(あわせてテレビの果たす役割も再確認できました)

小さな書店にはまだまだ可能性があるかもしれません。